読み返したい!『冷戦の起源(Ⅰ、Ⅱ)』

『冷戦の起源(Ⅰ、Ⅱ)』永井陽之助 著/中公クラシックス/1978年/絶版(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

「広島、長崎への原爆投下は断じてソ連への牽制を目的としたものではない」。本棚に並ぶ『冷戦の起源』が目に入ると、決然とそう語っていた著者の姿を思い出す。

著者は国際政治学の泰斗(たいと)であり、大学、大学院を通じての評者の恩師でもある。本書は著者の代表作の1つで、原爆投下による日本の降伏から朝鮮戦争に至る時期を扱い、戦後の東アジアの国際環境=冷戦構造がいかに形成されたかを考察している。

本書刊行の時分、著者が奉職していた東京工業大学では、「江藤政治学・永井文学」との言い方がされた。政治評論に傾倒する江藤淳と文学的な隠喩や自由な発想が特徴の著者が注目されていたのだ。本書でも、「共産主義に対する疫学的メタファー」「政治過程における顕教と密教」など、当時としては斬新な表現で、物事の本質を見事に突いている。

「米国の工学的戦争観」を最初に指摘したのも著者であり、それが原爆投下の大きな誘因と考える。今や「工学的戦争観」は各大国が共有し、AI兵器の開発に躍起になっている。

38度線の歴史的清算や、米ソに代わる米中2大国時代の到来は国際政治において現在最も重要なイシューである。だからこそ、今、戦後東アジアの国際環境がどのように形成されたかを、本書を再読して改めて考えてみたいと思う。