評者|青山学院大学教授 会田弘継

読み返したい!『フィンランド駅へ(上、下)

『フィンランド駅へ(上、下)』エドマンド・ウィルソン 著/岡本正明 訳/みすず書房/1999年/上下各4500円+税(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

学生時代に『アクセルの城』を読み、文芸批評家としてのウィルソンに注目していた。その後、ジャーナリストとなり1990年代に政治思想史をたどる中で『フィンランド駅へ』を手にし、スケールの大きな思想史家としての側面を知って驚嘆した。南北戦争を論じた『愛国の血糊』とともに座右に置いている。文学と政治の交差するところに立つウィルソンの姿が好きだ。

本書が描くのは、歴史家ミシュレが1824年1月に18世紀の哲学者ヴィーコを「発見」し、新しい歴史叙述を始めてから、亡命中のレーニンが1917年4月にロシアに戻り、ペトログラード(現サンクトペテルブルク)のフィンランド駅に立ち、ロシア革命を率い始めるまで。

「社会主義」という思想が発展していく流れを、サン=シモン、フーリエ、マルクス、トロツキーなどの思想家の人間模様を絡めて描き出す。大河ドラマならぬ大河思想史だ。

今さら滅びかけている思想の発展史を学んでどうする、と思うなかれ。本書に描かれた思想史こそが20世紀の混迷の核であり、われわれはいまだにそこから脱してはいない。この大河思想史のアジア版を描かなければ、中国という巨大な挑戦に立ち向かえない。ある意味で本書は序章だ。じっくり読み直そう。