時折ニュースで、「メキシコ麻薬戦争」という言葉を見聞きすることはないだろうか。2006年末に始まる同国の麻薬密輸組織への掃討作戦、いわゆる麻薬戦争は、組織間の抗争を激化させた。米国との国境がある北部地域が主戦場で、沿岸部や南部の一部にも及ぶ。それらの地域では、麻薬密輸組織が抗争で殺し合い、市民、政治家、ジャーナリストにも被害が及んでいる。メディアではたびたび、見せしめにさらされた凄惨な死体の写真が取り上げられる。06年末以降、メキシコにおける麻薬犯罪がらみの殺人件数は12万人に上るともいわれる。

筆者は、麻薬関連犯罪の経済的要因に関して研究するため、米ハーバード大学のメリッサ・デル博士、米イリノイ大学シカゴ校のベンジャミン・ファイゲンバーグ博士らと、メキシコ都市部で雇用機会の喪失が麻薬関連の凶悪犯罪増加にどれほどつながるのか調べた。

雇用機会と犯罪の両者の間の因果関係を示すことは、簡単ではない。仮に、雇用が減ると犯罪が増えるという「雇用と犯罪の負の相関関係」を見つけたとしよう。だが、それだけでは雇用機会が減ったから犯罪が増えたのか、犯罪が増えたから雇用が減ったのかを区別できない。このようなとき、雇用機会には影響するが犯罪には直接影響せず、また犯罪に影響する観察不能な要因とは相関しない変数を「操作変数」として使うのが、経済学の実証研究で有力な方法の1つである。

雇用が密輸や殺人と関係?

そこでわれわれは都市部の雇用機会の中でも製造業に注目した。メキシコの輸出産業の中でも、非熟練労働者が雇用に占める割合が大きい産業は、米国市場で中国との競争にさらされてきた。そのため、中国との競争にさらされるような産業に依存する都市とそうでない都市で、製造業の雇用および犯罪の変化にどのような違いが生じたかを分析した。言い換えれば、メキシコ各都市の製造業雇用に対し、中国による対米輸出の増大のうち、中国による供給で説明されそうな部分を「操作変数」として用いた。

主要な結果は次の3つである。