元グーグル米国本社 副社長 村上憲郎

量子コンピューター

むらかみ・のりお●1970年京都大学卒業。グーグル米国本社副社長兼日本法人社長を務めた。(撮影:今井康一)

米国と中国が量子コンピューターの開発に湯水のごとく国家予算を投じているのは、相手の暗号システムを壊せるという国防上のモチベーションからだ。

現行の暗号方式は、大きな数字の因数分解を根拠にしたもので、普通のコンピューターで解読しようとすれば何億年もかかる。それが、量子コンピューターを開発できれば、理論上、無限のケースを一気に計算でき、素因数分解問題を高速で解く「ショアのアルゴリズム」で、現行の通信システムをすべて解読できてしまう。開発に成功した国は、情報戦争において一方的な優位を保つことになる。

そうしたきな臭い軍事的なモチベーションと同時に、中国では民間企業のレベルでも米国と十分張り合えるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような私企業が育ってきた。彼らには、量子コンピューターでAI(人工知能)を高速で走行させて自動運転車などに組み込もうという、ビジネスのモチベーションがある。

本命の競争はこれから、中国を侮るべからず

ただAIチップの世界ではNVIDIA(エヌビディア)やグーグルなどの米国企業が強く、もう勝負はついている。「それなら次は量子コンピューターだ」と、中国のBATは優秀な人材を集め、米国企業に対抗しようとしている。

いま商用化されている量子コンピューターは、グーグルやNASA(米航空宇宙局)が共同運用しているD-wave Systems社(カナダ)のものが代表的だ。だがこれは、ある最適解問題に特化した「量子アニーリング」と呼ばれる方式のコンピューターで、本命のデジタル量子コンピューターの開発競争はこれからだ。2020年代に中国企業が世界の構図を変えたとしても、まったく不思議ではない。(聞き手:秦 卓弥)