ロシアのプーチン大統領は独裁者で、専制的政治を行っているという見方は間違いだ。プーチン氏がしたくてもできないことが少なからずある。もっともロシアの場合は帝政時代、ソ連時代を通じてエリートと民衆(ナロード)が分離している。民意が反対していても、大統領はそれを無視してロシアの国益のために必要な政策を取ることができる。

むしろ、大統領の政策を制約するのは、権力基盤となっているいくつかのグループだ。このグループは外部からはほとんど見えない。FSB(連邦保安庁)、SVR(対外諜報庁)、内務省、軍など「力の省庁」出身者からなるシロビキ(直訳すると「力の人たち」)、石油ロビー、天然ガスロビー、ガスロビー、非鉄金属ロビー、漁業ロビーなど特定の天然資源と結び付いた勢力、モスクワ市、サンクトペテルブルク市、北コーカサス地方、極東地方など地域と結び付いたロビーがプーチン氏を支えている。いずれのロビーも、プーチン氏を「独裁者」のように見せることに自らのグループ的利益を見いだしている。

プーチン氏は去年11月14日、シンガポールでの日ロ首脳会談で、安倍晋三首相と「1956年の日ソ共同宣言を基礎にして平和条約交渉を加速することに合意した」。北方領土問題を解決しないと平和条約は締結できない。主権に関し、歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島は日本、国後(くなしり)島と択捉(えとろふ)島はロシアに帰属することを確認し、日ロ間に平和条約を締結する。ロシアは、国後島と択捉島に関して、簡易な手続きでの往来、経済活動について日本だけに特別の便宜を付与する。また、国後島、択捉島周辺のEEZ(排他的経済水域)において日本の漁民が操業することを認める。こうして、2島返還プラスアルファで北方領土問題が解決する方向で動いている。

現在、森健良外務審議官とロシアのモルグロフ外務次官の間で、平和条約交渉が鋭意進められている。ただし、交渉のテンポが遅い。それは、北方領土問題を解決するとロシア中枢部の権力構造が変化するからだ。