(撮影:大澤 誠)

あれから、10年が過ぎた──。

豊田章男のトヨタ自動車社長への就任、すなわちトヨタの“世襲劇”は、初っぱなから波乱含みだった。いや、異例ずくめだった。こんなはずではなかったと、豊田家は思ったに違いない。

豊田家にとって、「豊田」の名を持つ新社長の誕生は、待望だった。7代目社長の豊田達郎が退いたのは、1995年8月。以来、2009年6月に章男が就任するまで、奥田碩、張富士夫、渡辺捷昭と、3代の“サラリーマン社長”が続いた。実に14年が経っていた。

章男は、トヨタの創業者である豊田喜一郎の孫であり、名誉会長の豊田章一郎の長男。つまり、正統な創業家の3代目。正真正銘の御曹司の社長就任だ。

(左)豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)1894年生まれ。章男の祖父。東京帝国大学工学部卒。1921年豊田紡織入社。33年豊田自動織機製作所内に自動車部設立。37年トヨタ自動車工業として独立。41年社長。52年没。(読売新聞/アフロ)
(右)豊田達郎(トヨタ自動車7代目社長)1929年生まれ。豊田喜一郎の次男、章男の叔父。東京大学工学部卒、米ニューヨーク大学経営大学院修了。53年トヨタ自動車販売入社。92年トヨタ自動車社長。95年副会長。2017年没。(読売新聞/アフロ)

章男の社長昇格はトヨタの「玄関ロビー」で発表された

本来、“大政奉還”は、慎重に慎重を期して、しかるべきタイミングを見計らって行われるはずの一大イベントである。

ところが、実際には、そう簡単に事は運ばなかった。

高級ホテルで華々しく行われるはずの章男の社長昇格発表は、09年1月20日、あろうことか、東京・水道橋にあるトヨタ東京本社の玄関ロビーで行われた。

明らかに、にわか仕立てであった。異例だった。