みきたに・ひろし●楽天会長兼社長。1997年エム・ディー・エム(現・楽天)設立。一般社団法人新経済連盟で代表理事を務める。(撮影:今井康一)

画期的ながんの治療法として、「光免疫療法」が今注目されている。2011年に米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員らのグループが開発。商業化を担う米ベンチャー企業のアスピリアン・セラピューティクス(当時)には、楽天の三木谷浩史社長が個人で出資し、経営も担う。楽天自体は少額出資で、ブランド名を貸与している状況だ。総資金調達額は400億円を超える。

治療の仕組みはこうだ。まず非熱性赤色光を当てると光る色素を乗せた抗体を注射、がん細胞表面の抗原に付着させる。そこに赤色光を当てると色素に化学反応が起き、急激に細胞膜を傷つけ、がん細胞を破裂させる。

現在のがん治療は、切除手術、放射線治療、抗がん剤の投与が主流だ。だが周囲の正常な臓器や細胞にもダメージが及ぶことがある。一方、光免疫療法は薬剤の投与量が少なく、赤色光も基本的に生体には無害。副作用を大きく抑えられる可能性がある。

日本のネット業界を切り開いた三木谷氏は、がん治療の課題やバイオ産業の未来をどう見るのか。

──個人で巨額出資してまで、なぜ光免疫療法の商用化を目指してきたのでしょうか。

父親がすい臓がんという、非常に治療が難しいがんになったのがきっかけだ。イーロン・マスクも誰も、起業家は皆、険しい山があれば登りたくなる。僕も同じで、治療法を探して世界中を回った。

そんな中で紹介されたのが小林先生だ。初めは「光でがん治療?」と疑問に思ったが、きちんと話を聞けば、なるほど、これは理論的にワークするなと。僕が初めてインターネットというものに遭遇したときと同じような衝撃を受けた。これは手術、抗がん剤、放射線という従来治療とまったく違う、第4の有力なアプローチになりうる。課題もたくさんあるだろうが、懸けてみる価値があると思った。

とはいえ、失敗のリスクが高い段階で楽天として数百億円という投資はできない。だから商用化が見えるまでは僕1人で財務面を支えようと。言い方は悪いが、天国にお金を持って行けるわけでもない。失敗するならそれでもいいと思って、個人でやってきた。

製薬大手に売却せず起業家精神で育てる

──バイオベンチャーの経営は、中長期の視点に立つのが難しい現状があります。