宿命に生き 運命に挑む
宿命に生き 運命に挑む(橋本五郎 著/藤原書店/2600円+税/379ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
はしもと・ごろう●1946年生まれ。70年慶応大学卒業後、読売新聞社に入社。論説委員、政治部長、編集局次長を経て、現在特別編集委員。コラム「五郎ワールド」を連載し、書評委員も20年以上務める。2014年度日本記者クラブ賞受賞。著書に『範は歴史にあり』『総理の器量』など。

書物、人物を通じて、現代を切り取るコラム集

評者 福井県立大学名誉教授 中沢孝夫

「ものをつくり、ものを用ゐるのはすべて人間なのである。原子力時代と呼ばれるやうな時代に生きて、原子力を用ゐる能力が、これに平行してゐるかどうかは、今日のところ、どうも疑問である」

哲学者、田中美知太郎が1952年に書いた文章を紹介し、さらに原子力開発草創期の技術者の言葉から、技術を用いる時の緊張感が時とともに失われると指摘。そして、同様に緊張感のない政界に、被災地に近い仙台での国会を開くことを提案する(「初心忘れた原子力」2011年6月11日)。鮮やかである。

本書は、70歳を過ぎてなお読売新聞で政治記者として活躍する著者が書いたコラムと書評を編んだものだが、出会った政治家や、書物、人物を通して、さりげない言葉によって現代を描いている。

後藤新平、大平正芳、中曽根康弘元首相らが繰り返し登場するが、彼らの言葉は本質的であり鋭利で深い思惟を感じさせる。例えば大平は「権力はそれが奉仕する目的に必要な限り、その存在が許される」と記した、とあるが、確かに権力とはそうあるべきだ。

また、中曽根元首相の『自省録』を読みながら著者は「権力を有する者は深く思索をめぐらし、権力に不可避な悪魔的部分を常に意識しながらも、その行使にあたっては謙虚であり続ける」ことの必要性を述べる。元首相は安倍首相を「ユーモアがない。笑いがない」と評する。首相がやじをやじで返してどうする──。

逆に民主党政権の言葉の軽さ。米軍普天間基地の移転について「最低でも県外」と言った鳩山元首相は、そのための努力をほとんどしなかった。菅元首相も同様だ。税と社会保障の一体改革を野党に呼びかけた時の言葉の空虚さ。考えてみれば旧民主党そのものが、自分たちが選んだ代表に関する責任感がゼロ。国民を感銘させるような言葉がどこにもない政党だった。

言葉といえばトランプ米大統領だが、著者は「ことの本質を考えさせるきっかけになり」「『常識』や『良識』の大切さを再認識させる」と指摘する。問われているのは日本自身がどうすべきか、だ。

著者は「健全な相対主義」の大切さを訴える。誰かが100%正しいということはない。真実は相対的なものである。また、それぞれに置かれた条件(制約)がある。それが宿命であり運命である。書名は名護市にある小渕恵三の碑文から借りている。宿命に負けず、運命に挑戦する人々が多数登場する。