資本主義の歴史: 起源・拡大・現在
資本主義の歴史: 起源・拡大・現在(ユルゲン・コッカ 著・山井敏章 訳/人文書院/2200円+税/221ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Jürgen Kocka●1941年生まれ。独ビーレフェルト大学教授などを経て、現在ベルリン自由大学名誉教授。専門はドイツ近現代史、欧州比較史。著書に『工業化・組織化・官僚制──近代ドイツの企業と社会』『歴史と啓蒙』『市民社会と独裁制──ドイツ近現代史の経験』など。

コンパクトに変遷を叙述、国家とともに生き延びる

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

「資本主義は最悪の経済体制といえる。これまで試みられてきた、資本主義以外の全ての体制を除いては」。民主主義に関するチャーチルの名言をもじって、資本主義を揶揄する人も多いが、代替しうる経済体制を掲げるのも難しい。

ただ、資本主義なる呼び方は、工業社会が誕生した19世紀半ばの西欧で、資本の論理に左右される当時の過酷な経済社会を批判するために生まれた。資本主義批判は資本主義同様、古くから存在する。

本書は、資本主義のこれまでの変遷を歴史学の重鎮がコンパクトにまとめたものだ。

15世紀頃まで、社会の圧倒的大部分は自給自足体制で、封建的な非資本主義の原理が支配していた。ただ、世界各地で早くから遠隔地貿易が活発化し、商人資本主義の萌芽も見られた。興味深いのは、その段階からトランスナショナルな性格を持ち、金融と深く結びついていたことだ。

続く300年は、地理的発見もあり、グローバルな商人資本主義や金融資本主義が、プランテーションや鉱業、家内制手工業に広がる。市場経済ではなく、あえて資本主義と呼ぶのは、賃金労働の広がりとともに、労使間の緊張や不平等拡大など社会や文化に多大な影響を及ぼしたからだ。

19世紀には工業資本主義の時代が訪れる。大量生産で企業規模が拡大し、必要とする資本が増えると、オーナー資本主義から経営者資本主義への移行が始まる。経営者の官僚化が懸念されたが、株式付与などで経営の規律付け問題を克服すると、同族の足かせを抱えるオーナーより、むしろ雇われ経営者の方が経済合理性を貫徹するようになる。

近年は、資産運用の機関化現象で、経営者が資本市場から強い圧力を受ける投資家資本主義の時代が到来する。資本市場の論理が人事や経営を左右するだけでなく、経済格差の拡大やグローバル金融危機の頻発などを通じ、経済社会の土台を脅かし始めた。日本では非正規雇用など不安定な雇用が増えたが、それも先進国に共通の現象だった。

資本主義は行き詰まりなのだろうか? 簡単に答えは出ないが、資本主義はその誕生から、批判を糧に変質を繰り返し、生き延びてきた。社会が不安定化した戦間期の1930年代は、福祉制度が整備され、国家が介入する領域も増えた。今回も同様なのだろう。そもそも資本主義は成立時から国家と結びついていた。だとすると、民主主義だけでなく、権威主義国家の下でも機能するということだろうか。