【今週の眼】早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェロー
はやかわ・ひでお●1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。著書に『金融政策の「誤解」』。(撮影:梅谷秀司)

アベノミクスが始まって6年余、日本銀行の「異次元緩和」からも間もなく6年になる。効果も定かでない実験的な政策を行うことに関しては賛否両論あろうが、実験は善きにつけあしきにつけ必ず何らかの「発見」につながる。以下では過去6年間の発見のうち、筆者がとくに重要だと考えるもの2点について述べたい。

まず第1に、巨額の国債残高の半分を日銀が保有するほどの大胆な金融緩和でも2%の物価上昇率目標が達成されることはなかった。「物価は貨幣的現象」でないことが完膚なきまでに証明されたといえよう。しかし、名目金利がゼロになった後でマネタリーベースを増やしても、何の効果もないことは経済理論では以前から知られていた。常識が再確認されただけで、そこには何の驚きもない。

にもかかわらず、かつての筆者は、構造的な人手不足がある以上、時間がかかっても2%目標は達成されると考えていた。だが6年間の実験が示したのは、驚くほどの賃金・物価の粘着性、いわば「物価は歴史的現象」だということだった。長きにわたるデフレの中で、値上げをしないことがノルム(規範)として定着してしまったからだろう。だとすれば、バブル期でさえ物価上昇率は1%程度だったという歴史的与件に加え、バブル崩壊後の不良債権問題に十分な対処ができず、結局1997〜98年の金融危機にまで至ってしまったこと(その後にデフレは始まった)の負の遺産はあまりにも大きかったといわざるをえない。