3月8日にアドバネクスのホームページに掲載された「訴訟の判決に関するお知らせ」は異例の判決内容だった
精密バネ大手・アドバネクスと元役員との係争の行方が業界関係者の間でがぜん注目を集めている。いったい何が起きたのか。「週刊東洋経済プラス」では、独自取材をもとに、全10000字超の詳報決定版を作成した。アドバネクスの株主や取引先だけでなく、企業の株主総会担当者にとっても必読のリポートだ。
<3月24日8時20分追記>
誤字の修正を行いました。
<3月25日7時30分追記>
加藤雄一氏に追加取材した内容を書き加えました。

 

「訴訟の判決に関するお知らせ」ーー。そのリリースは3月8日、アドバネクスのホームページ上に掲載された。原告は元会長の加藤雄一氏ら創業家一族で、昨年の株主総会に提出された修正動議について、決議そのものの不存在や可決の取り消しを求めるものだった。

会社の原提案(以下、会社提案)が可決されていれば、加藤元会長ら取締役4人(うち、社外取締役2人)は再任されていた。しかし、修正動議が可決されたことで4人は事実上解任され、新たに社外取締役3人が選任された。この決議をめぐって、加藤元会長ら創業家は昨年8月、アドバネクスを相手取って訴訟を起こしていた。

原告、被告ともに控訴

東京地方裁判所が下した判決は原告にとって納得のいくものではなかったが、被告のアドバネクスも「受入れがたい内容であり、控訴を含めて今後の対応を検討する」とした。東京地裁は加藤氏ら取締役4人の地位回復の請求を退けた一方、昨年6月に新しく就任した社外取締役3人について「取締役に選任するとの決議を取り消す」としたからだ。

総会決議の取り消しを求める裁判は珍しくない。だが、この分野に詳しい弁護士によると「東証1部上場企業の総会決議の取り消しを認めた判決は過去に例がない」という。アドバネクスの社外取締役3人の選任が無効ならば、昨年6月の就任からこれまで行ってきた取締役会決議がすべて無効になりかねない。

原告側が3月20日に控訴(アドバネクスは22日に控訴)したことで係争は続くが、そもそも昨年の株主総会で何が起きていたのか。裁判資料などから詳細を明らかにしていこう。

なお渦中の加藤元会長は21日に取材に応じ、修正動議で事実上解任されたことについて、「まったく理解できない」と話す。本リポート後段にて、その発言の詳細を紹介する。

東洋経済の取材に応じた加藤雄一元会長。本記事の後段に登場する

事件:「えー、整理番号3番です」

2018年6月21日。アドバネクスの株主総会は、例年と同じ会場の浅草ビューホテルで開催された。関係者によれば例年の出席者は80~100人だが、当日はそれよりやや少ない74人だった。事前の議決権行使はほぼすべてが「会社提案に賛成」だったため、総会はいつも通り午前中に終了するものと思われた。