3月29日23時(中央欧州時間30日0時)をもって、英国はEU(欧州連合)を離脱するはずだった。だが、ブレグジット(英国のEU離脱)は成立しなかった。12日、英国下院はメイ首相がEUとの間で合意した「離脱協定案」を反対391票、賛成242票の大差で否決した。

離脱協定案は昨年11月にまとめられたが、12月に採決が見送られ、今年1月の下院採決でも230票の大差で否決されていた。今回はメイ首相が、懸案の北アイルランドのバックストップ(安全策)をめぐりEUと瀬戸際の交渉を行って、議会に修正案を提示。必死に理解を求めたが、与党からも多数の反対が出てまたもや否決されてしまった。野党・労働党のコービン党首は解散総選挙を主張している。政局の流動化は避けられない。

コービン労働党党首は解散総選挙や国民投票再実施を提案(ロイター/アフロ)

13日に「EUとの合意なき離脱」(ノーディール・ブレグジット)を受け入れるか否か、14日には3月29日に迫った離脱期限を延期するか否かの投票を行う(本稿執筆時点は日本の13日)。合意なき離脱を回避し、ひとまず離脱延期となるのは間違いないが、問題はその後。21日のEU首脳会議で延期をEUに求めても、肝心の打開策は見えないからだ。延期は長期にわたる可能性もある。

離脱協定案の焦点はアイルランド国境問題

離脱協定案の何が問題なのか。最大の壁は、アイルランドのバックストップ条項と呼ばれるもの。これはアイルランドと北アイルランドの国境をめぐる問題だ。アイルランドはEUに属しているが、北アイルランドは英国領。英国がEUを離脱するなら、アイルランドと北アイルランドとの間に通関のための国境が必要になる。ところが、ハードボーダー(物理的国境)を設けることができない事情がある。

北アイルランドではその帰属をめぐりユニオニスト(英国への帰属を主張、プロテスタントが主体)とナショナリスト(アイルランドへの帰属を主張、カトリックが主体)の武力紛争が続き、1990年代までテロ事件が頻発した。これをようやく収束させたのが98年の「ベルファスト合意」。この合意では帰属を北アイルランドの住民の意思に委ねている。住民は英国とアイルランドのいずれか、または両方の国籍を持つことができ、ハードボーダーを設けないことが定められた。国境を設ければ紛争が再燃する可能性がある。