百貨店の進化
百貨店の進化(伊藤元重 著/日本経済新聞出版社/1800円+税/252ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
いとう・もとしげ●1951年生まれ。東京大学経済学部卒業後、東大大学院教授、NIRA理事長などを経て現在、学習院大学国際社会科学部教授。専門は国際経済学、ミクロ経済学。現場を歩き、理論的観点も踏まえた経済分析に定評。著書多数。オーラルヒストリー収集にも熱心。

変化への対応が得意? ネットとも実は相性いい

評者 兵庫県立大学大学院客員教授 中沢孝夫

売る側の多様化と消費者の情報収集方法の変化で、小売業は転換期にある。本書は、小売業の中でも百貨店の抱える問題点と可能性について、足で情報を集め、データを点検して論じている。

百貨店の売上高は、1991年の9兆7131億円をピークに、2016年には6兆円弱まで縮小した。小売業全体の売上高は横ばいなので、百貨店の独り負けという状況だ。確かにユニクロやアマゾンの成長は驚異的だ。ただ、見方を変えると百貨店は健闘していると著者は言う。

ダイエーは創業15年で小売業の売上高で日本一になったが、それから30年余で破綻した。一方、百貨店の中には江戸時代に呉服屋として創業した老舗がいくつもある。

売上高が4割近く減少しても百貨店が生き残っているのは、結果的に変化への対応力があるということだ。さらに、魅力的な商品の調達力、売り場を編集する力、あるいは消費者の百貨店への信頼など、ブランドを作る能力が卓越しているからなのだろう。

また、日本の都市における交通網の発達は、大都市の中心部に位置する百貨店の存在を支えている。そして同時に大型の百貨店の存在が都市へと消費者を呼び込む。

近年、郊外のショッピングセンターが魅力を喪失しつつあるのは、素人目にもよくわかる。都市と百貨店が醸し出す魅力は別格だ。

米国の百貨店の変遷と凋落や東アジア諸国の百貨店の状況を見ると、消費のパターン形成と変化への対応には、それぞれの国の歴史経路の違いが反映すると感じる。例えば「お帳場」の強さは日本の百貨店の個性のようだ。顧客との信頼関係(特別扱い)は店の命であろう。ICTの発達により、富裕層以外も特別扱いできる点に著者は百貨店の可能性を感じている。

評者は百貨店のお得意様ではないが、店内を歩いているだけで、現在の売れ筋がわかるような気がする。体感はアナログだが重要な情報だ。

オンラインストアであるアマゾンなどが、実店舗の経営に乗り出すのは、消費者がまったく「未知」の商品をネット上で注文することはほとんどないからだ。

消費は、商品の品質、デザイン、風合、使い勝手、味といった「リアル」がきわめて重要である。つまり、オンラインストアは、実店舗において消費者がある商品に関し「既知」であることを前提としている。となれば、その「前提」(=実店舗)は滅びない。