2011年に福島第一原子力発電所の事故を受け、それまで政策的に進められてきた原子力発電の是非について激しい議論が交わされた。事故から8年ほど経過した現在でも、避難生活を送る被災者の状況には改善されない点も多い。事故をめぐる補償、周辺地域の除染、廃炉に向けた作業など、将来にわたる課題も山積している。電力政策の今後の方向性を定めるためには、とくに原子力発電のコストとベネフィット(費用と便益)を見極めたうえでの冷静な分析を踏まえ、意思決定につなげることが重要である。

とはいえ「コストとベネフィットを見極める」と言うのは簡単だが、実際に行おうとすると極めて難しい。まず、原子力発電のコストを考える際に避けて通れないのが、事故による被害の評価であろう。大規模な事故ほど被害の範囲や規模が大きい。避難指定や賠償の対象となる近隣の地域はもちろん、対象とならない離れた地域にまでさまざまな影響が及んでいる。

福島第一原発事故では、避難指定や賠償など対象地域における被害額を政府などが試算しているものの、それに該当しない地域の被害額の全貌は明らかではない。しかし事故後、避難指定や賠償の対象とならない北関東や千葉県といった地域の農産物や、土地をめぐる人々の購買行動と取引価格に影響が及んだことは周知の事実だ。

事故処理費用で22兆円

政府によると、福島第一原発事故の処理にかかる費用額は、14年の段階の試算で11兆円、16年12月に発表した新しい試算で22兆円と見込む。ただし、政府試算は避難指定区域、または除染・賠償の対象地域で発生する費用に基づいて、主に廃炉・汚染水処理、賠償、除染にかかる費用を合計したものである。したがって、対象外の地域に及ぼした影響は含まれていない。そのため、対象外地域も加味すれば、推計される被害額はさらに大きなものとなりうる。

このように考えると、「避難指定や賠償の対象とならない地域において、土地などの取引価格が原発事故の影響でどれほど下落したのか」という問いの下で被害額を明らかにすることは、政府推計を補完し、より広域かつ包括的に実態を捉える意味でも重要だ。