よりよき世界へ――資本主義に代わりうる経済システムをめぐる旅
よりよき世界へ――資本主義に代わりうる経済システムをめぐる旅(ジャコモ・コルネオ 著/水野忠尚、隠岐-須賀麻衣、隠岐理貴、須賀晃一 訳/岩波書店/3400円+税/366ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Giacomo Corneo●1963年、イタリアのアローナ生まれ。ミラノ、パリ、ローマで学び、97年ドイツのボン大学で教授資格を取得。ボン大学、オスナブルック大学を経て、現在、ベルリン自由大学教授で公共経済学科長。専門は公共経済学、財政学、社会政策。

「旅」の果てに 意外だが納得の結論

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

一般に資本主義は、市場システムと生産手段の私有制との組み合わせと定義される。平成が始まった頃、共産圏の瓦解を前にして、資本主義こそが唯一の経済システムなんだと多くの人が考えた。

しかし、繰り返される金融バブルや膨大な浪費、経済格差、金権政治などを前に、欧米では懐疑的な人も増えている。本書は、ドイツの経済学者が代替可能な経済システムを丁寧に探ったものだ。

経済の寡頭支配などの問題は、政治との癒着の中で生じる。それゆえ、まず哲人政治の下で公正な商業資本主義を模索したプラトンの共和制を振り返る。ただ、現実には、哲人の間ですら正義について合意するのは容易ではない。

次に共有財産制を目指したトマス・モアのユートピア論やクロポトキンの無政府主義を検証するが、市場システムなしには複雑な経済の資源配分は困難で、機能しない。そこで、旧ユーゴスラビアで採用された自己管理型の市場経済に目を転ずるが、株式市場による経営者への規律付けが働かず、縁故主義に陥る。

最後に著者は、株式の過半を公有とする株式市場社会主義を検討する。市場競争の下で、企業が自由に設立され、資源配分の問題も解決し、経営者への規律付けや経済の寡頭支配の阻止も可能という。

ただ、福祉制度を備える現行の資本主義に対し明確に優れているとは言えない。制度移行の際の多大な費用や不確実性を考慮すると、安易に移行すべきではないという意外だが納得できる結論に達する。ベーシックインカムについても、財源問題などから、現実的な選択ではないと慎重だ。

過去20年、グローバリゼーションに伴い、資本や人材の国外流出を恐れるがゆえに、所得税や法人税の不毛な切り下げ競争が展開され、福祉制度は各国で縮小を余儀なくされてきた。それは必然だったのか。国際協調という手段で対抗できたはずだ。

著者は質の高い福祉制度の再構築が肝要とし、構築の過程でソブリンウエルスファンドなどによる漸進的な株式公有制導入も役立つという。

本書も論じる通り、中央計画経済は現場の情報を入手できないため機能しないというのが一般的な理解だ。評者も長くそう考えてきたが、急激に発展するデジタル技術がダークサイドで利用されると、オーウェルの『1984』的な管理社会が可能となる。暗黒社会の到来を避けるためにも、「人間の顔を持つ」経済システムの追求が必要だ。