悲しきアメリカ――その真の様相
悲しきアメリカ――その真の様相(ミシェル・フロケ 著/大井 孝、土屋 元 訳/蒼天社出版/2400円+税/233ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Michel Floquet●1958年生まれ。リール大学院ジャーナリズム専攻修了。TF1(テレビ・フランス1)で1981年からレバノン内戦、ルワンダの虐殺、ソマリア内戦、ユーゴ紛争など多くの紛争を取材。ニュース番組の編集責任者、ワシントン特派員を経て、報道部副部長。

理想と現実の悲しい乖離 愛憎併存の米国批判

評者 東京外国語大学大学院教授 渡邊啓貴

フランスではトクヴィルの『アメリカのデモクラシー』以来、米国関連本が連綿と刊行され、その多くが批判的な内容である。

しかし、フランス人の米国批判は両国の歴史的しがらみもあって一筋縄ではいかない。実は両国民には引かれ合うところが多く、フランス人ジャーナリストの著者が指摘するようにフランス人の対米感情は「愛憎併存」という状況にある。本書も批判的だが、それは単なる悪感情ではなく、著者の米国への思い入れや期待の大きさゆえの失望感に起因しているのだろう。

本書の特徴は、さまざまな領域の矛盾やひずみが社会の中に構造化されていることを豊富な事例とともに説き、矛盾やひずみの相互連関性を明らかにしている点だ。

米国の理想はデモクラシーの手本となることだ。ところが、発言・行動の自由は、偏った宗教的世界観によって制約される。裁判所では自分の信念を優先する公務員が同性愛、避妊、中絶などをあっさりと拒絶する。

また、教育の機会均等は、大学の授業料が高額なため一部の富裕層だけのものでしかなく、欧州とは比較にならないほどの極端な富の格差がある社会の維持につながっている。事実、世界的な大金持ちがあまたいるのに、ウォルマートの多くの従業員は貧困層に甘んじている。

デモクラシーの国を自負する一方で、全体主義的ともいえる巨大な官僚体制を構築し、非公式な黒人差別や銃所持の容認は暴力的国家機構への変容を助長する。

理想のデモクラシーが幻想となった今日の米国社会の全体像を浮き彫りにすると同時に、著者の歴史的関心が反映されているのも本書の特徴だ。入植の正統性を擁護する立場から原住民インディアンの存在と大量虐殺についてはほとんど語られない。彼らが「アメリカ人」と同等の権利を得たのはなんと1953年だ。インディアンたちの指定居住地区では失業率や犯罪率が高く、平均寿命は50歳以下であるという数字も示される。

世界が期待したオバマ前大統領の「チェンジ」もかけ声倒れになってしまった。米国社会の旧套墨守の仕組みを覆すことができなかったばかりか、ポピュリズムの機会主義者、トランプ大統領を誕生させてしまった。

そうした意味では、近代デモクラシーの理想を掲げながら社会の矛盾を放置してきた結果が、トランプ大統領といえるかもしれない。