フランス政治危機の100年--パリ・コミューンから1968年5月まで
フランス政治危機の100年ーパリ・コミューンから1968年5月まで(ミシェル・ヴィノック 著/大嶋 厚 訳/吉田書店/4500円+税/600ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Michel Winock●1937年生まれ。近・現代フランス政治史、政治思想史が専門の歴史家。フランスにおけるナショナリズム、反ユダヤ主義、知識人の政治参加に関する代表的研究者のひとり。『知識人の時代──バレス/ジッド/サルトル』『フランスの肖像』など著書多数。

「共生の意思」の育成に代償が必要なことを示す

評者 東京外国語大学大学院教授 渡邊啓貴

本書は、初版当時(1987年)、売れっ子歴史家による広い視野からの歴史書としてフランスで大きな話題を提供し、ヴィノックの名を不動のものとした。留学中だった評者も、『六角形の国(フランス)の熱狂』という原題に大いに興味をそそられた記憶がある。

著者によると政治危機とは単なる混乱ではなく、「共和主義政体」そのものを脅威にさらす深刻な混乱を意味する。しかし本書の狙いは社会の動揺や分裂そのものをたどることではない。混乱を通して「共通のルールの下での違いを受け入れる『共生の意思』(コンセンサス)の育成」を考えることにある。

本書はそのプロセスを、19世紀後半、普仏戦争後の第二帝政の倒壊から始め、本格的な共和制が成立した後のフランス人ならだれでも知っている歴史的事件の顛末を簡明かつ面白く説明する。パリ・コミューン、第三共和制初期の議会に対する大統領の権限集中プロセス(1877年5月16日事件)、議会権力の膨張に対するポピュリズムの高揚(ブーランジスム)、ナショナリズムと排外主義(ドレフュス事件)、ファシズム・右翼の暴動(1934年2月6日事件)、人民戦線崩壊(ドイツへの降伏と第三共和制の実質的終焉)、植民地帝国の崩壊と第五共和制の誕生、高度成長の行き詰まりの中での新たな異議申し立て(68年5月)という8つの歴史的な事件を通して共和制的デモクラシーの危機を語る名調子が本書の醍醐味である。

初版時、保守派支配の第五共和制でミッテラン率いる社会主義政権が誕生したことは、フランス国民がついに政治制度に関するコンセンサスを実現したと著者には思われた。それこそ、著者が本書を上梓した理由だった。本書を通してデモクラシーの確立がいかに多くの代償を必要とするのか、読者に示し、自らも感慨を持って振り返ったのである。

しかし、残念ながら著者の期待を裏切って、フランス国民は今なおデモクラシーを模索し、もがいている。極右、国民戦線の隆盛と最近の「黄色いベスト」の直接行動による異議申し立ては、フランス的な民主主義の試行錯誤である。フランスの挑戦はどのような形で落ち着くのであろうか。そうした疑問に対して多くのヒントを与えてくれる。

大事件の真相を語りつつ、フランス共和国の通史としての性格も持っているので、歴史好きの読者には拾い読みして楽しむことも可能だ。