佐藤光展(さとう・みつのぶ)/医療ジャーナリスト、探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。読売新聞で15年間医療部に在籍、連載「医療ルネサンス」「ヨミドクター」を執筆。2018年退職しフリーランスに。著書に『精神医療ダークサイド』。(撮影:今井康一)
「患者のため」の身体拘束が招く死。処方薬の影響で体中に入れ墨をした女性、万引を繰り返した会社員や衰弱後に突然死した自閉症患者。担当医は患者家族から逃げ回り、「親の代わりに殴った」と開き直る。半世紀前と変わらない医療現場がある。

 

──にわかには信じられないような事例だらけです。

なぜ、日本の精神医療は暴走するのか
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1970年に朝日新聞の記者だった大熊一夫さんが精神病院内での患者への暴力をルポして、社会問題になりました。87年に精神衛生法が精神保健法へと改正され、改善されたと思っていたが、医療担当記者として取材していると、誰も開けない扉がある。好奇心から開けたら人がばたばたと倒れている。自分では“蘇生”できないので「これ、おかしいでしょ、助けませんか」という気持ちで書いています。臭い物にふたは一般的ですが、精神医療には社会のひずみが凝縮していると感じます。

──昨年8月に毎日新聞が、精神病院に50年以上入院している人が1773人いると報じました。

こうした状況を、多くの人はおかしいと感じるはずですが、そうなっていないのは、まさに患者を病院に閉じ込めて、リアルな患者の姿を見せていないから。ある精神科医に言わせると、従順ないい人だから何十年も入院しているわけで、世間が考える突然暴れ出すような人たちなら、暴動が起きて病院は潰れている。

──これだけひどいと、「極端な例だ」という声もあるのでは。

そういう反応は必ず出ます。ただ、メディアが取り上げるのは何であれ極端な例がほとんどです。殺人事件は年間約300件で年々減っていますが、報道しなくていいという話は聞きません。事件の背景にある社会の問題や被害者の命の重さは伝えなくてはいけない。それが、精神疾患の患者の場合なら、虐げられても一部だからいい、というのは理解できません。