貸谷伊知郎(かしたに・いちろう)/1959年生まれ。1983年同志社大学卒、豊田通商入社。アフリカ現地での要職などを経て、2011年執行役員、2017年専務執行役員に就任。2018年4月から現職(撮影:梅谷秀司)

「本籍地・トヨタグループ、現住所・商社」。それが豊田通商の立ち位置だ。トヨタグループ唯一の商社である豊通は2006年にトーメンと合併し、2012年にはアフリカに強い仏大手商社CFAOを買収。原料調達や物流、海外ディーラー展開などトヨタグループ中心から幅広い分野を扱う総合商社の一角に躍り出た。インフラや化学品、食料など自動車以外の分野も多く扱うが、同社最大の強みであり特徴はやはり自動車関連だ。

豊通は豊田自動織機が1936年に設立した「トヨタ金融」をルーツに持ち、国内初となる自動車の月賦販売の金融会社として創業。戦後に第二次財閥指定により解散した後、1948年にその商事部門を継承して設立されたのが「日新通商」であり、1956年に社名を今の「豊田通商」に変更した。1964年にドミニカ共和国向けを皮切りにトヨタ完成車の輸出を開始。1980~90年代には輸出のみならず、トヨタのグローバル化に伴い、海外販売拠点を相次ぎ設立するなど、未開の地を積極的に攻める役割を担ってきた。

今ではトヨタも海外展開が進み、豊通は次世代車のカギを握る投資に力を入れている。トヨタが2018年6月に1100億円の巨額出資をした東南アジアのライドシェア最大手グラブにはトヨタに先んじて2017年に出資済みだ。電気自動車(EV)の要となる豪州のリチウム資源会社にも約260億円を出資し、アルゼンチンのオラロス塩湖でリチウム増産に踏み切る。リチウムは電池の重要素材で中国系企業との獲得競争が激しい中、先手を打った格好だ。

大手総合商社とは違い、シェールオイルなど大型資源投資に距離を置くなど派手な動きはあまり見せないが、自動車業界が100年に1度の変革期を迎える中、次世代技術で有望な新興企業を世界中から探し出す選眼力は今まで以上に問われている。2代続けてプロパー出身で社長に就任した貸谷伊知郎社長に今後の舵取りを聞いた。

「先に出ていって、情報を収集する」

──トヨタグループにおける豊田通商の役割とは何でしょうか?

トヨタ自動車は今、グループの総力を挙げて戦っていこうとしている。その考えに共鳴し、しっかりと貢献していきたい。

2018年1月には、当社の執行役員が転籍してトヨタのアフリカ本部長に就いた。また、アフリカ市場でのトヨタ車の営業業務も、当社への移管検討で合意した。豊田通商が強みを持つアフリカで、しっかりと責任を果たしていきたい。

豊田通商が共同開発するアルゼンチンのオラロス塩湖。人工池で乾燥させてリチウムを生産する(提供:豊田通商)

──2017年に出資した東南アジアのライドシェア最大手・グラブには、2018年6月にトヨタも1100億円の出資を決めました。

トヨタグループの先兵役を担わせてもらった。それ自体が重要な役割だと認識しているし、それでいいと思っている。トヨタはメーカーとして、しっかりやっていくタイミングになれば、ケタ違いの投資に踏み切る。どういうところにチャンスがあるのか、先に出ていって、いろんな情報を収集して、トヨタグループに還元していく役目がわれわれに求められている。

──グラブへの出資は、次世代技術に投資する社内ファンドの第1号案件となりました。
 
ファンドでは総額60億円の投資枠を設定している。従来の投資プロセスより大幅に簡略化し、スピードを持って経営判断できるようにした。数カ月かけてビジネスプランを作っていたら、相手が逃げてしまう。さらに、ビジネスプランが描けないテクノロジーもある。従来の投資枠組みに当てはめて審査するには無理があり、ダブルスタンダードでやっている。

「唯一無二の存在になる」

──将来のEVの要となる豪リチウム資源会社にも約260億円を出資しました。