イラスト:谷山彩子

バッハについての一般的なイメージってかなり「地味」なんじゃないかと思うんです。ピアノ曲にしてもショパンのような華やかさはないし、オーケストラにしてもマーラーやワーグナーのような絢爛(けんらん)さはない、どちらかといえばどの楽曲にしても、とつとつと語るようなところがあって、そういうイメージになっているんじゃないかな。

ただ、プロの音楽家の世界ではかなり位置づけが違っていて、端的に「世界でいちばんよい曲は何ですか?」と聞けば、かなりの人が「それはマタイ受難曲だろう」と答えるのではないかと思います。作曲家の故・武満徹氏は毎朝、作曲の仕事に取りかかる際にマタイ受難曲の終曲をピアノで弾いていたそうですし、坂本龍一氏も自分のお子さんに「これが世界でいちばんよい曲だよ」と説明してマタイ受難曲を聴かせていた、そんな話を以前、聞いたことがあります。プロとアマで評価が極端に分かれる作曲家の筆頭といってよい人でしょうね。私自身も「最も好きな作曲家を挙げろ」と言われれば、迷うことなくバッハの名を挙げます。

ということで、おそらく音楽家としては最も完成度の高い楽曲を、最もたくさん生み出したのがバッハなのですが、どうやってそのような生産性の高さを維持できたのか。ここで考えてみたいのが「仕事の質と量」という問題です。主立った作曲家が生涯に残した作品のおおよその数を確認してみましょう。