【今週の眼】小峰隆夫 大正大学地域創生学部教授
こみね・たかお●1947年生まれ。東京大学卒。経済企画庁経済研究所長、物価局長、調査局長、国土交通省国土計画局長などを経て、2017年4月から現職。日本経済研究センター理事・研究顧問も務める。著書に『人口負荷社会』『日本経済論の罪と罰』『政権交代の経済学』など。(撮影:尾形文繁)

しばしば、将来の人手不足が人数で示される。「2025年には介護人材が38万人不足する」「労働市場全体の人手不足数は30年には644万人になる」といった類いの議論である。こうした人数をベースとしたアプローチに対しては、強い違和感を持っている。それは無意味であるばかりか、有害でさえあるからだ。

なぜ無意味なのか。こうした人手不足の推計では、産業構造の変化を一定程度想定し、各分野の生産量に応じて必要となる労働量数をはじき出す(需要の推計)。次に、年齢別の労働力率などから労働力者数を出し、その分野別配分を推計する(供給の推計)。この需要と供給の差が不足人数となる。このとき、賃金や生産性、企業の参入や撤退、各分野の公的規制といった変数はほぼ固定されている。

しかし、こうした需給差が将来にわたって続くことはありえない。事前には需給ギャップが続くと見込まれても、結果的には何らかの調整が働いて需給はほぼ一致する。女性・高齢者・外国人の働き手が増えるかもしれない。賃金が上がると「そんな高い賃金では雇えない」と雇用を諦める企業も出るだろう。ロボットなどの技術進歩が、労働者1人当たりの生産性を向上させることも考えられる。