いまだ苦しい福島にも希望に満ちた話がある ノンフィクション作家 川内有緒氏に聞く

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川内有緒(かわうち・ありお)/1972年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米ジョージタウン大学で修士号取得。米企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務。2010年フリーライターに。著書に『バウルを探して』『パリでメシを食う。』『晴れたら空に骨まいて』など。(撮影:尾形文繁)
北京五輪の開会式、巨人が夜の街をのっしのっしと歩く壮大な花火アートは記憶に新しい。その仕掛人こそ現代美術の巨匠・蔡國強。一方、美術とは無縁の福島県いわき市の実業家・志賀忠重と彼の仲間たち。まだ駆け出しの蔡と出会った彼らが世界を股にかけ、共にアート作品を生み出していく。しかもそれは現在進行形だ。

“一歩踏み出したら、それが冒険でねえの?”

──志賀さんとの出会いは、郡山での用事の“ついで”でしたね。

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知人から「いわき回廊美術館」の話を聞いて、立ち寄ろうと電話しました。出てきたのが志賀さんで、「行ってもいいですか、取材したいんで」と尋ねたら、「いんやあ、取材はダメだなー。取材されて人がいっぱい来ても迷惑なんだ。ここは駐車場もトイレもねんだ」って。それでますます行きたくなった。「来られたら迷惑だって思いっ切り書きますから!」と畳み込むと、「じゃあ、いいよ」とOKしてくれた。志賀さんも私に興味を持ったみたいで、何時間も話してくださった。その話がすごく面白かったんです。

──まさかそこから、世界的アーティストや北極海横断に話が展開していくとは……。

想像してなかったですよね。びっくりしました。現代アートの巨匠である蔡國強さんと出会って30年、蔡さんがスケッチしたアイデアを志賀さんと仲間たち「いわきチーム」が形にするやり方でどんな作品を一緒に作ってきたか、大場満郎さんの世界初単独徒歩による北極海横断の際は、冒険ド素人なのに補給機で物資を運んだとか、大震災で何を考えたかとか。250年かけていわきに9万9000本の桜を植える「いわき万本桜プロジェクト」が進行中なのですが、「250年なんて、プルトニウム半減期の2万4000年に比べれば短いよね」と。このおっちゃんタダ者じゃない!と感じた。

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