1974年、日本で初めてコンビニエンスストアを作ったのが、セブン&アイ・ホールディングス(HD)元会長である鈴木敏文名誉顧問だ。90年に4000店だった「セブン‐イレブン」の店舗数は2019年2月期末に2万0960店へ増える見込み。存在感を増し続けるコンビニと流通業界の平成30年間を振り返る。

すずき・としふみ●1932年生まれ。63年にイトーヨーカ堂に入社、73年にセブン‐イレブン・ジャパンを設立。2005年にセブン&アイHDを設立し会長兼CEOに。16年に退任し名誉顧問就任。(撮影:今井康一)

──平成の30年間でコンビニがスーパーを逆転しました。

昭和の時代よりものが豊富になり、売り手市場から買い手市場に変わってきた。

売り手市場のときは、安くすれば売れるといった経済学の原理だけでよかった。僕がコンビニを始めたときはまだ消費者がものを欲しがっていた時代だった。スーパーが全盛期で、小さな店を作ったってダメだよ、とイトーヨーカ堂の内部でも当時の伊藤雅俊社長をはじめ全員から反対された。

コンビニでは壁を破り続けた

ところが買い手市場になると、お客さんの立場でものを考える心理学の分野に入らなくてはいけない。時代が大きく変化しているのに、日本のスーパーは米国のシアーズなどを見てきた。要するに物まね。日本の消費パターンがどう変わったかはあまり研究されず、時代の変化に対応できなかった。

セブンは時代の変化を先取りして伸びてきた。以前はおにぎりや弁当はどこにも売ってなかった。われわれが販売しようと思っても、「家庭でご飯を炊いておにぎりや弁当にするもので、売れるはずがない」と言われた。中小の米飯メーカーに「売れるようになっても自営で弁当を作ることはしない。店舗はどんどん出す」と話して、米飯メーカー同士がノウハウを共有し、必ずセブンだけに商品を納めてくれる仕組みを構築したのが昭和の時代。その基礎があったから、平成になって伸びてきた。それがなければ、絶対に現在のセブンはないですよ。

01年に銀行(現セブン銀行)を作るのも、金融からマスコミから総反対だった。だけど、一般のサラリーマンは休みが多いわけでもない。ATMがコンビニの中にあったら便利だと思った。今になってみるとどうってことないと思うけれども、当時、誰もそんなものがコンビニの中にできるとは思ってなかった。壁を破り続けてきたということですよね。

──07年に登場したプライベートブランド「セブンプレミアム」では、「金の食パン」をはじめ高単価の商品も出しています。

プライベートブランドというのは、ナショナルブランドと同じようなもので値段が安いというのが世界的な定義だけど、僕はそうしなかった。おいしいものを作りなさいと。世界の定義を乗り越えたことをやってきた。

画一化したところはダメ 客にとって合理的であれ

──コンビニ業界では出店競争が続いてきました。

店舗数なんて関係ない。一つの店の周りの人たちにどれだけ満足してもらえるか、だ。店数が増えて量が増えればコストが下がるという考え方は絶対ダメ。セブンは2万店を少し超えた。ローソンやファミリーマートも1.5万~1.7万店程度ある。だけど、1店当たりの平均売上高である日販で10万円以上の開きがあるでしょう(注:18年8月期セブン66.6万円、ローソン53.7万円、ファミリーマート53.4万円)。

スーパーだって、店数の多いところが必ず伸びているわけじゃない。たとえば、埼玉県を地盤とするスーパー・ベルクは非常に伸びている。一方、米国のセブンは91年に倒産しましたよね(注:現在はセブン&アイ・HDの米国法人)。それは完全に消費者の立場に立った考え方をしていなかったから。画一化したところは、やっぱりダメなんだよね。セブンは商品が北海道とか東北とか分かれている。そういうふうにきめ細かくしないといけない。

──コンビニにとっていちばん重要なことは何でしょうか?

お客さんサイドに立って合理的であることだ。たとえば、セブンのロイヤルティは表面的にはいちばん高い。だけども、お店に対するサービスはいちばんいいわけ。セブンは電気代のうち80%を本部が持っている。ところが、もし30%にすると、お店では、もったいないから少し節約しよう、となるよね。そうすると、お客さんから見た場合どう? それから当たり前のこととして、商品がおいしいか、おいしくないか。おコメ一つとっても、セブンは日本でその年のいちばんおいしいおコメを仕入れてきた。ところが今は、往々にして売り手側が合理性を追求しすぎている。

──小売業はキャッシュレス決済の導入など省人化の方向に向かっていますが、あまり望ましくないということでしょうか。

もちろんそうしなくちゃいけない部分もある。でも、僕の目から見ると、売り手側の合理性の追求が多すぎる。

(撮影:今井康一)

注目はドン・キホーテと100円ショップ

──30年間、消費者の行動の変化に、どう対応してきましたか?

セブンを始めたばかりのときは、若い人のお店だったでしょ? 今はもう40歳、50歳、老夫婦を対象にしたお店に変わってきていますよね。昔は電気料金などの支払いは、全部集金に来た人に払わなくちゃいけなかった。そんなことは挙げていったら切りがない。これからもコンビニはどんどん変わる。

──現在、小売業の中で注目している企業はありますか。

ドンキホーテHDは前から注目していた。違った視点でお客さんに商品を提供する、独特で今まで誰も考えなかったような陳列とか、商品の集め方とか。「違和感」を演出することが受けている。ほかには、100円ショップ。「え、これが100円でできるの?」という商品がたくさんあるでしょ。

──アマゾンをはじめとするECが勢力を伸ばしています。

これまで大型スーパーも一気に伸びた。ダイエーさんが、西友さんが、イトーヨーカ堂が伸びたのと同じような、要するに最初の段階での伸び。ECがこのまま伸びていく保証はどこにもない。

──ECにはなくて、リアル店舗にあるものは何でしょうか。

全部ネットでやれば事足りるというんじゃなくて、衣料品のように実際に商品を手にしないと満足しないお客さんもいる。