
第1級の政策決定開示 低水準のエリートに涙
評者 兵庫県立大学客員教授 中沢孝夫
「白川日銀と民主党政権」と「黒田及び岩田日銀と安倍政権」を比べると、経済状況はまったく異なる。
本書を読むまでもなく、ここ5年、経済はずいぶんと好転した。失業率の低下(2.3〜2.4%は完全雇用といえる)、有効求人倍率は1.6倍を超えており、職業選択の自由を行使できる十分な水準に達している。そして企業の倒産件数にいたっては1990年のバブルのピーク時につぐ低水準である。企業の利益はずっと拡大基調だ。
もちろん「今後の副作用の危険性」はいくらでも指摘できる。しかし、副作用の危険性があるから今の経済が停滞していてもよい、ということにはなるまい。
いつの時代にも極端な意見はあり、現在の筆頭は国債価格暴落論だろう。暴落すると思う人は本書で紹介されているように「国債のクレジット・デフォルト・スワップを大量に買ったらどうか」と評者も思う。自説を信じて大もうけに乗り出すとよい。
この岩田の「日記」を読みながら、ため息が出た。理由は、黒田・岩田の金融政策の良し悪しではない。「選良」という言葉が辞書から逃げ出したくなるような人物が、国会議員として闊歩している事実である。とくに旧民主党はひどい。そして、議員のレベルは国民のレベルを超えることはないので、「これが日本国民のレベルか」と思ってため息が出るのである。
議員だけではない。たとえば、消費増税時の関係者の発言の背景である。「証券会社や銀行系のシンクタンクは仕事上、財務省の意向を忖度して行動している」と本書は指摘するが、とても納得がゆく。一部の経済メディアが経産省のお先棒を担ぐのと同じ構図である。義よりも利だ。

「日記」が後半になるにしたがって、著者はあちこちに病を抱えることをしたためるようになるが、当然だ。日銀副総裁は、雑な新聞記者による暴論や「選良」からの事実に反する攻撃を受けたりして、心身ともに不健康な環境に置かれる職務だとよくわかる。
しかしまあ冷たいようだが、このような椅子に座ることを決めたのは本人だからやむを得まい。
むろん、実際には、この「日記」に書けないような“重要なこと”もあるのだろう。その点を割り引いても、読者にとって本書は第1級の金融政策決定のプロセスの開示だと考える。
と同時に、政治はやはり生臭い、と評者は思った。