本多勝一氏(元朝日新聞記者、『週刊金曜日』編集委員)の『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日文庫、2015年)は、実用性の高い表現法の本として評価が高い。旧版が上梓されたのは1982年なので36年経っても店頭に並んでいるロングセラーだ。

本多氏は、本書の目的を〈読む側にとってわかりやすい文章を書くこと〉(11ページ)と規定している。その目的に合致する記述になっている。本多氏は、作文を芸術ではなく、技術と考える。芸術ならば特殊な才能が必要とされるが、技術ならば、正しい手続きに即して学べば、誰でも(通常の忍耐力があれば)習得できることになる。以下に、本多氏の作文に関する思想が端的に示されている。

〈実はこうした文章論に類するものを書くことに、私はいささかの躊躇と羞恥をおぼえざるをえない。というのは、私自身が特にすぐれた文章を書いているわけではないし、もちろん「名文家」でもないからだ。私の身近な周辺にさえ、私など及びもつかぬ名文家や、技術的にも立派な文章を書く人がいる。いわゆる年代的な「先輩」ではなしに、純粋に文章そのものから見ての大先輩に当たるそうした人々をさしおいて、この種のテーマを書きつづることの気はずかしさを、読者も理解していただきたい。にもかかわらず書くのは、開きなおって言うなら、むしろヘタだからこそなのだ。もともとヘタだった。中学生のころを考えてみても、同級生に本当にうまい文章を書く友人がいた。とてもかなわないと思った。就職としては新聞記者になってしまったが、「名文」や「うまい文章」を書くことは、ほとんどあきらめた。あれは一種の才能だ。それが自分にはないのだ。しかしこれまで努力してきて、あるていどそれが実現したと思っているのは、文章をわかりやすくすることである。これは才能というよりも技術の問題だ。技術は学習と伝達が可能なものである。飛行機を製造する方法は、おぼえさえすればだれにでもできる〉(11ページ)