人類の過去についての物語である『サピエンス全史』に続き、その未来についての物語を『ホモ・デウス』で描いたユヴァル・ノア・ハラリ氏。2つの大著に通底するその問題意識について、両著の翻訳を担当した翻訳家の柴田裕之氏に聞いた。

全世界で800万部以上売れている『サピエンス全史』。世界中の経済人が激賞している。(河出書房新社/300ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

読書の魅力は自らの先入観や固定観念、常識が覆され視野が広がることだが翻訳も同じだ。私は『サピエンス全史』『ホモ・デウス』両著の翻訳を通して、そうした体験を繰り返した。

『サピエンス全史』はかつてアフリカ大陸で細々と暮らしていたわれわれ現生人類(サピエンス)が、21世紀までたどってきた道のりを振り返る。サピエンスが地球を支配するに至ったのは、多数の見知らぬ者同士が協力し、柔軟に物事に対処する能力を身に付けたからだと著者は言う。

これを可能にしたのが「虚構」、すなわち架空の事物について語れるような想像力だ。虚構とは伝説や神話にとどまらない。企業や法制度、国家や国民、さらには人権や平等、自由まで虚構だと筆者は指摘する。こうした虚構を作り替えればすぐに行動パターンや社会構造も変えられるので、サピエンスは遺伝子や進化の束縛を脱し、変化を加速させ、ほかの生物をしのぐことができたという。

この虚構は両著に通底する著者独自のキーワードだが、なぜこうした発想に至ったのか。私は著者がイスラエルで生まれ、現在もエルサレムのヘブライ大学で教鞭を執っていることとのかかわりは大きいと思っている。ユダヤ教徒とイスラム教徒が激しくぶつかり、人の命が簡単に消える日常。しかもハラリ氏は、非ユダヤ教徒で同性愛者だと公言している。少数者の立場にあるからこそ、自らの信じるものと多数者が信じるものとを客観的にとらえ、価値観を根底から覆すような独自の視座を示すことができたのではないか。

神性獲得目指し人類は終焉?

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