世界中の知識人から称賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。

現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。

ホモ・デウスの世界で人々は、ごく一部のエリートと、AIによって無用になった「無用者階級」に分断され、かつてない階層社会が到来すると警告する。

『ホモ・デウス』著者 ユヴァル・ノア・ハラリ
Yuval Noah Harari●イスラエルの歴史学者。1976年生まれ。英オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在はエルサレムのヘブライ大学で歴史学を教える。最新作に『21 Lessons for the 21st Century』(邦訳未刊)

──『ホモ・デウス』を書こうと思い立った理由を聞かせてください。

この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命をつかさどる最も根源的な法則を変えようとしている。

40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。生命はどれほど珍奇な形状を身にまとおうとも、ゆっくりと時間をかけて進む自然淘汰という範囲の外へと足を踏み出すことはなかった。サボテンであろうが、クジラであろうが、すべての生命体は有機的な変化が積み重なった結果なのだ。

しかしこのような自然淘汰の法則は、近くテクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。

40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。

このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。人類が賢い決断をできるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう。

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──テクノロジーの進化によって、人類は幸せになれるのでしょうか。

歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使うすべを知らない、ということが往々にしてあった。

たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は、狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。

人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。

石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。

農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない。

──AIのような先端テクノロジーがもたらす人類の未来像とは?

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