金融失策 20年の真実
金融失策 20年の真実(太田康夫 著/日本経済新聞出版社/1800円+税/271ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
おおた・やすお●1959年生まれ。82年東京大学卒業、日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部などを経て現在、編集局編集委員。主な著書に『金融大国日本の凋落』『グローバル金融攻防三十年』『バーゼル敗戦』『ギガマネー 巨大資金の闇』『没落の東京マーケット』。

原因は半端な改革だけか 必要な顧客本位の視点

評者 上智大学経済学部准教授 中里 透

「銀行よ、さようなら、証券よ、こんにちは」。昭和30年代の「投信(投資信託)ブーム」の頃、こんなフレーズが流行った。だが、それから半世紀以上経った現在でも、家計金融資産の過半は現預金であり、株式や投資信託などを通じた資産保有の多様化は、大きく進展したといえない状況にある。これはなぜなのだろうか。

「貯蓄から投資へ」が謳われる中、さまざまな制度改革が実施され、銀行と証券の垣根は格段に低くなったが、このような制度変更は日本の金融システムにどのような影響を与えたのだろうか。

本書はこれらのことを考えるうえで興味深い1冊だ。

著者によれば、1990年代以降に進められてきた一連の金融制度改革(金融ビッグバン、ペイオフ解禁、郵政民営化、金融商品取引法の制定など)は、「貯蓄」(預貯金)から「投資」(株式・投資信託など)への資金移動を促す方向に働くはずの制度変化であった。だが、制度改革が中途半端なものにとどまったことや、金融商品の選択において家計が安全性を重視する姿勢が根強いことなどのため、「貯蓄から投資へ」には十分な進展がみられなかった。

この状況を踏まえて著者は、「投資」を無理に促進するよりも「貯蓄」中心の資産形成を重視し、銀行融資を通じた資金仲介の仕組みを強化することを提案している。

たしかに、家計の資産保有において現預金が過半を占めたとしても、市場に歪みがないなら、それを是正する必要はないし、銀行に目利きの力があれば、成長分野への資金供給は適切になされるから、間接金融中心の金融システムでも支障は生じない。

ただ、著者も指摘しているように、投資信託などの金融商品に対する家計の不信感が原因で投資が進まない面があるのだとしたら、それは日本経済にとって不幸なことだ。また、銀行が投資信託の販売に力を入れるのは、有望な貸出先を見出す力が低下して、資金利益だけでは十分な収益が確保できなくなったことの裏返しという面もある。

これらを踏まえると、現在提供されている金融商品や金融サービスが、顧客本位のものになっているかの見直しが重要ということになるだろう。このことは融資や決済サービスにも当てはまる。

97年秋から98年末に至る金融危機から20年が経ち、日本の金融システムは安定をとりもどしたが、課題は数多く残されている。