第1次世界大戦終戦から100年の記念式典で演説するフランスのマクロン大統領(代表撮影/ロイター/アフロ)

11月11日、第1次世界大戦終戦から100年の記念式典でフランスのマクロン大統領は次のような演説を行った。「ナショナリズムは愛国心を裏切るものだ。(中略)自分の利益が第一で、他者は二の次だと言うことによって、最も重要な道徳的価値観というものを、われわれは消し去っている。(中略)孤立、暴力、あるいは支配によって平和への希望をくじくことは間違っている。そんなことをすれば、当然のことながら、未来の世代の人たちはわれわれにその責任があると考えるだろう」。

民主政治の劣化が世界的に進む現状への強い危機感が、マクロン演説には表現されている。ナショナリズムと愛国心(patriotism)の区別は、日本人にはわかりにくいだろう。マクロンの言うナショナリズムとは、自国の権益をなりふり構わず追求し、世界の秩序を揺るがす態度であり、愛国心とは自分の属する国の政治に参加し、よりよい社会を作り出そうとする能動的な態度である。トランプ米大統領に代表されるナショナリズムが、国家を単位とする従来の民主政治を機能不全に陥らせているとマクロンは主張した。トランプはこれに反発し、かえって国際協調の難しさを世界に印象づけた。

欧米の知識人も民主政治の危機を真剣に訴える著作を相次いで出版している。ティモシー・スナイダーの『暴政』、スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラットの『民主主義の死に方』などがその代表である。第2次世界大戦後の西欧と北米では民主主義は自明の制度となった。しかし2010年代の世界では民主主義は脆弱だ、という警鐘をこれらの書物は鳴らしている。民主主義が崩壊した1930年代と現在との間には多くの共通性がある。第一に人種や文化が異なる少数派に対する差別、排斥を公然と唱える言説や運動が社会にあふれている。第二に雇用の劣化や貧困の拡大によって人々が余裕を失い、民主社会に必要な寛容という価値が崩壊しつつある。第三に政治の言論においてうそや捏造が横行、特に既存の政治家を攻撃するアウトサイダーの政治家がこれを多用している。第四に、ナショナリズムが高まり国際社会が不安定化している。