『危機の指導者 チャーチル』に続き、現役外交官が評伝の対象に選んだ政治家は、チャーチルとは異質の「鉄の女」サッチャー元英首相(在任1979〜90年)。中沢孝夫・兵庫県立大学客員教授がその魅力を聞く。

マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)
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──サッチャーの行ったことに関し、概念化された、適切な表現が多々書かれていますが、彼女自体はあまり好きになれない?

苦手でしたね。チャーチルには読者に伝えたい話が山ほどあるが、彼女にはそうした人間的共感が持てなかった。それでも、サッチャーは労働党による企業国有化の果てに停滞していた英国を、個人と国家の境界線を引き直し、資源配分のあり方そのものを変えることで復活させた。成し遂げたことはチャーチル以上で、英国のみならず世界的にも名をとどめてしかるべき政治家だと今は思う。

──内政では、政治的かつ戦闘的だった炭鉱労組(NUM)のストに対峙し勝利したのが大きかった。

労働党の基盤を弱めようという意図もあったと思うが、彼女は組合否定ではない。組合幹部の特権濫用や勤労を神聖視する彼女の価値観などと相いれない点で、NUMに対し強い決意があった。

彼女が閣僚を務めたヒース内閣が炭鉱ストで退陣に追い込まれたとき、NUM指導部は「賃金のためのストではない、倒閣のためだ」と公言している。彼女は、労組の分を超えた政治的活動に対抗心を燃やしたし、働きたいと思っている人を政治的活動のためにないがしろにする指導者を許せなかった。

──1980年代には、炭鉱が舞台の名画『わが谷は緑なりき』に描かれたような激しい階級差別はなく、ストが共感されなかった?