川邊健太郎(かわべ・けんたろう)/1974年生まれ。青山学院大学在学中に起業を経験。2000年ヤフー入社。「Yahoo!ニュース」の責任者などを経て、2012年に副社長。2018年6月から代表取締役社長(撮影:今井康一)

楽天、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、カカクコム――。日本におけるネットベンチャーの草分け的企業の多くが、1990年代後半に創業した、いわば「20年ベンチャー」だ。その先頭を走り続けているのがヤフー(1996年創業)である。

そんなヤフーが今、大きな変革期を迎えている。今春、経営体制を一新、40代の執行役員を複数加え、”若返り”を図った。同時に年間300億円に上る新領域投資を打ち出し、直近ではスマホ決済やビッグデータ関連事業に踏み出している。

新たな経営体制の課題は何か。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)をはじめとするテックジャイアントが全世界で猛威を振るう中、日本のIT・ネット企業はどう戦っていくのか。ヤフーの川邊健太郎社長にじっくり聞いた。

インタビュー(全4回)の初回は、9000万人に上るヤフーユーザーの利用動向や、ネット業界に押し寄せる「パーソナライズ(個人最適化)」の大波について分析し、ヤフーの進むべき道を構想する。

競合より、毎日ずっとユーザーを見ている

──社長就任から半年が過ぎました。新体制下でヤフーが直面している課題は何ですか。

前提として、宮坂(学・前社長)体制で実現したことは主に3つあった。まず「パソコンのヤフー」から「スマートフォンのヤフー」への移行だ。まだ100点満点とは言えないかもしれないが、スマホ経由でヤフーに訪れるユーザーがものすごく増えた。2つ目はEC(ネット通販)の事業の拡大。「EC革命」と銘打って店舗向け、利用者向けとも大胆に施策を打ち、トップに近いところまで持って行けた。最後は社内改革。マネジメントや人材育成の方法を抜本的に改革し、非常に働きやすい会社に生まれ変われたと思う。

これを踏まえて、新体制で何をやるのか。まずは既存サービスでユーザー体験をもう一段引き上げることだ。スマホ時代になって、ユーザー体験を磨き続けることの重要性がどんどん高まっている。ポータルサイトの「Yahoo!」と、そのほかにたくさんあるサービスとのつながりをよくしていきたい。事業目標としては、期初から掲げているとおり、3つの分野でナンバーワンを目指す。「ネット広告の売上高」「ECの流通総額」、そして新たなテーマである「モバイルペイメントの取扱高」だ。

特に3つ目のモバイルペイメントは非常に重要性が高い。IoTをはじめ、あらゆる場面でリアルとネットが融合するのは世界的なトレンドだ。そんな中でヤフーにとっては、スマホ決済がユーザーのリアルの生活に入り込む最初の入り口となる。ここは「PayPay(ペイペイ)」(ソフトバンクとの合弁で10月5日に開始したスマホ決済サービス)で確実に押さえていきたい。

──社長就任時の会見でも聞きましたが、ネット業界を見渡すと、下にはメルカリを初めとする新進気鋭のベンチャーが存在し、上にはGAFAをはじめとするテックジャイアントが君臨しています。そんな中で、改めてヤフーという会社の「立ち位置」をどう考えますか。

会見では質問の方向性に沿う形で「両挟みの状態」という答え方をした。記事にするときのアングルとして、競合比較というのは面白かったり読まれたりするから、とかくそういう話に引っ張られるかもしれない。だが、日々経営をしている立場からすると、競合はそこまで気にはしていないというのが本心だ。やっぱり、毎日ずっとユーザーを見ている。特にネット企業の場合はどこもそうじゃないかと。

確かにテックジャイアントはより強くなり、ベンチャーが勃興している。一方で、ヤフーには今も9000万人のユーザーがいる。その9000万人の利用者が、どうしてヤフーを選び使ってくださるのか。あえて競合見合いで考えるなら、どうしてヤフー(の利用)を止めて競合サービスに行ってしまうのか。そういうことをつねに考えていくことにこそ立脚すべきではないかと思う。

今年1月の社長交代発表会見で、社長に就任した川邊健太郎氏(右)と前社長の宮坂学氏(左)(撮影:今井康一)

ヤフーは多くの人に必要とされていると日々感じる。災害時にはものすごい数の人がまずヤフーに来て、最新情報を得ようとする。先般の北海道地震では、全道に及ぶ停電で道民の人はテレビを見られなかった。そんな中、テレビ局の知り合いから「うちでは届けられない情報をヤフーでどんどん伝えてほしい」と連絡をもらった。少なからぬ道民の皆さんが、ヤフーを見て「電気が全然ダメらしい」「スマホの節電はこうするのか」と情報を集めていったはずだ。

もちろん、うちが価値を発揮しているのは特殊な環境下だけではない。日々の生活の中で、便利に使える、簡単にわかる、儲かる、楽しい・・・・・・そういった、今ヤフーが持っているサービスや機能、立ち位置を大事にして、より強化していければと考えている。

「ヤフトピは別に見なくてもいい」というユーザーが増加

──改めてヤフーのユーザー、特に自身のIDを登録しログインして使っているユーザーは、どんな人たちであるととらえていますか。

たとえばLINEが日々のコミュニケーションに使われているのに対し、ヤフーは日々の情報消費に使われている。それは災害やエンタメのニュースを見るというネットで完結する消費もあれば、ECのように、実際にモノが届くまでを含む消費もある。こういうものが入り交じった、最も雑多なものが検索。ありとあらゆるものを調べると。これらを総合的に支援するのがヤフーのサービスであり、多くのユーザーが使ってくれている。

ログインに関しては、パーソナライズ(個人最適化)が大きなカギになっている。ベタだけど、すごく普及しているのが都道府県別のニュース。ログインして居住地域や出身地域を登録すれば、ローカルニュースを優先的に見られる機能だ。また、東方神起のニュースをたくさん見ていると東方神起のニュースが増えてくる、というように、自然に自分の好きな情報が集まるようになっている。そういう部分に利便性を感じている方が多いようだ。

──ヤフーは最近、肌感覚的に、性別や年齢といった属性より、その人が何を読んでいるかといった行動データの重みが増しているように見えます。

川邊氏は2000年のヤフー入社後、「Yahoo!ニュース」、動画ストリーミングサービスの「GYAO(ギャオ)」など、メディア関連の事業に長く携わった(撮影:今井康一)

確かにそうだ。まず世界的な流れとして、いわゆる「個人情報」は本人の同意を得られたとしても、マナー的になるべく触らないという方向に来ている。使う場合は重厚なセキュリティやユーザーコミュニケーションが求められる。これはあらゆる意味で非常にコストが高い。一方で、サイト内の行動・利用データからその人のことを推定する技術が発達した。匿名化された推察データだ。活用のトレンドは完全にこっちに移ってきているし、われわれも当然、こちらに比重を移している。

ネガティブな要因ばかりではない。同じ年齢、同じ性別でも、今や好みはものすごく多様化している。昔は同調性バイアスが高くて「皆と同じものを見ていれば安心」という価値観が強かった。だが今の、特に30歳以下の世代は「なぜ皆で同じものを見ないといけないんだ」と。完全にそういう思考になっているし、それをわかっているサービスのほうが好まれる。最たる例は、自分でフォローしたものだけを見られるツイッターだろう。

ヤフーに関して言えば、最近は「トピックス欄は別に見なくてもいい」という行動を取る人たちが増えている。今は全員に等しくトピックス欄を最上段に表示しているが、その下にあるタイムラインの欄、つまりパーソナライズされている欄の価値を求めてヤフーにやってくる人が明らかに増えた。災害時などに果たす役割もあるが、たとえば九州に住んでいる人に、北海道の災害の速報を全部見せないといけないかというと、ちょっとわからない。いいことか悪いことかは別として、関心を持たない層は必ずいるので。

メディア別に考えてみると、テレビはチャンネルの主要な選択肢が6つしかないうえに、総合編成なので取り上げる話題がどうしても似てくる。ネットメディアはその真逆で、選択肢が無限大。ヤフーは今のところ、その中間くらいの位置にいるのではないか。

──今後も「中間」であり続けるべきだと思いますか。

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