サイバー空間を支配する者 21世紀の国家・組織・個人の戦略
サイバー空間を支配する者 21世紀の国家、組織、個人の戦略(持永 大、村野正泰、土屋大洋 著/日本経済新聞出版社/2300円+税/356ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
もちなが・だい●三菱総合研究所科学・安全事業本部フロンティア戦略グループ研究員。ネットワーク、サイバーセキュリティ技術などを調査・研究。
むらの・まさやす●三菱総合研究所社会ICT事業本部サイバーセキュリティ戦略グループ主席研究員。情報処理推進機構、経済産業省への出向経験あり。
つちや・もとひろ●慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、情報社会論。著書に『サイバーセキュリティと国際政治』など。

サイバー空間の攻防激化 日本は安全対策で後手

評者 北海道大学大学院教授 橋本 努

トランプ大統領は去る9月、中国からの輸入品2000億ドル相当に対して、10%の関税を上乗せすると発表した。サイバー空間における中国のスパイ活動や知的財産権侵害への報復、というのがその理由である。すでに2013年の報告書では、米国の被害額は年間3380億ドルに上ると指摘されていた。

サイバー空間の攻防は、国家間の経済摩擦の種である。背後にはネット覇者の変容がある。いまやインターネットの国別利用者数では中国が米国をはるかに上回り、ネットで使用される言語も英語と中国語がほぼ互角の状態だ。1990年代までは米国の一極支配。ところが、現在では米国、欧州、中国の多極的支配へと変化している。

台頭する中国は最近、国内のコミュニケーションと金融をオンライン化することで、中央政府による監視と制御を強めてきた。「デジタル・レーニン主義」とも呼ばれるその手法は、じつは国際秩序形成力としても有効である。たとえばタンザニア政府は、中国の支援のもとでサイバー空間の管理手法を導入、その見返りに中国は8000万ドルの投資を行うことにしたという。中国流のサイバー空間がアフリカを含めた途上国に拡大すれば、中国はこの分野での国際的な主導権を握ることになるかもしれない。

マッキンゼーのレポートによると、2005年から14年にかけて、世界のデータ流通量は45倍に増えた。モバイルデータのトラフィック量は、15年から20年までの年平均で53%ずつ増加すると予測されている。日本ではGDPに占めるサイバー経済の規模が、16年の段階で5.6%になっている。

ところが、これに追いつかないのがセキュリティ関連の対策である。この10年間で日本の大手企業や政府機関から情報が大量に流出しているのに、対策のための今年度の政府予算は727.5億円。米国の40分の1だ。米国のサイバー軍は6000人程度といわれるが、日本のサイバー防衛隊は110人、その上位機関のサイバー関連部員を合わせても470人程度にすぎないという。

また、サイバー犯罪の投資対効果は麻薬犯罪並みの1452%と推定され、今後の増加が予想される。日本ではサイバー隊を拡張するためにも、人材育成が急務と感じた。

サイバー空間が抱える諸問題を深くかつ広範に描いた本書は、日本が置かれた深刻な状況を伝える必読の一冊だ。