欧州の政治、経済、文化に大きな影響力を持つフランスの思想家、ジャック・アタリ氏。同氏は近著『海の歴史』(プレジデント社刊)の中で、「海を破壊し始めた人類は、海によって滅びるだろう」と警鐘を鳴らす。海洋汚染問題へ日本はどう対応するべきか、寄稿してもらった。

経済学者・思想家・作家 ジャック・アタリ
Jacques Attali●1943年アルジェリア生まれ。81年仏大統領特別顧問、91年欧州復興開発銀行総裁など要職を歴任。ソ連崩壊やリーマン危機、2016年米大統領選挙でのトランプ勝利などを予測したことで、“欧州最高の知性”と称される。(撮影:尾形文繁)

海は、人間が必要とするすべての飲料水と酸素の半分、そして人間が摂取する動物性タンパク質の5分の1を供給する。気候を制御するのも海だ。海がなければ、気温は少なくとも35度は上昇するだろう。海には鉱物やエネルギーなどあらゆる資源が手つかずの状態で眠る。また、海はモノとデータの輸送だけでなくイノベーションや創造性が生み出される場でもある。

ところが海の状態はますます悪くなっている。現代人の行動は、環境に配慮しなかった5万年前の狩猟採集民族よりも劣悪である。われわれ人類は漁業資源を破壊し、海にはプラスチックなどのゴミを垂れ流している。これらのゴミは急速なペースで海に堆積している。そして地球温暖化が原因で海水の温度と海面水位は上昇している。海中の酸素は減り、生物種は危機に瀕している。人類は海を破壊する前に自分たち自身を破滅させてしまうだろう。