より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY 真実と嘘とリーダーシップ
より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY 真実と嘘とリーダーシップ(ジェームズ・コミー 著 藤田美菜子、江戸伸禎 訳/光文社/1900円+税/435ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
James Comey●1960年生まれ。米シカゴ大学ロースクール卒業。2013年から米国FBI長官を務めたが、17年5月にトランプ大統領に解任される(長官の任期は10年)。02〜03年ニューヨーク南部管轄連邦検事、05年8月までジョージ・W・ブッシュ政権下で司法副長官を務めた。

米国における司法と政治の対立のドキュメント

評者 東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望

評者は長年米国政治を研究してきたが、トランプ大統領ほど、人格性や倫理性、政治能力が問われる大統領は存在しない。反対者の批判にとどまらず、政府内からもトランプ大統領の指導者としての資質を問う発言が相次いでリークされ、閣僚たちは自分の発言ではないと自己弁護に躍起になっている。

最近ではウォーターゲート事件をスクープしたジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の著作『Fear』やニューヨーク・タイムズ紙の政府高官の匿名告発記事などがトランプ大統領の問題点を明らかにしている。

本書の著者はトランプ大統領に解任された米国連邦捜査局(FBI)前長官で、トランプ大統領の指導者としての資質に疑問を提起している。「指導者の倫理について検証することが役に立つ時期があるとすれば、それはまさに今なのである」と、本書の執筆動機を説明している。

大統領選挙の投票日直前にFBIはクリントン候補の私的電子メールを使っての機密漏洩疑惑の調査を行うと発表した。そのことが同候補の落選を招いた要因であるといわれている。著者は、その決定を行った人物である。この決定で著者は保守派の喝采を浴びた。だが、それは著者の本意ではなかった。「私の決断が選挙の結果に影響を及ぼしたかもしれないと考えると、軽い吐き気を催す」と述懐する。

また、FBIは大統領選挙へのロシアの介入を調査していた。トランプ大統領は調査に介入しようとする。さらに著者に大統領への個人的な「忠誠」を求める。だが、著者はそれを拒否した。その結果、トランプ大統領に突然、理由もなく解任される。著者は大統領とのやり取りを詳細に記録した「コミー・メモ」を発表して、トランプ大統領の行動の不当性を告発した。本書は、その事件の経緯を詳細に記したものである。

同時に指導者としてのトランプ大統領に評価を加えている。トランプ大統領を「心の奥に不安を抱えた人間であり、そのために謙虚にはなれそうにない」人物、人の言うことに耳を傾けることができない人物だと評する。

著者は司法の独立の必要性や官僚のあり方にも言及、民主主義に対する「より高き忠誠」の必要性を説く。日本では官僚や司法が権力者におもねるケースが散見される。著者の戦う姿勢は日本でも参考になるだろう。本書は司法と政治の対立のドキュメントである。