新潟県のほぼ中央部に二つの工業都市がある。燕市と三条市だ。二つの市名を合わせて「燕三条」と呼ばれるが、行政上は異なる街。両市を合わせると面積は542平方キロメートル、人口は約18万人に上る。上越新幹線の燕三条駅は両市の境界線上に位置する。

新潟県といえば、コメを中心とした農業のイメージが強い。ただ両市は江戸時代に和くぎやきせるなどの金属加工の街として知られたほか、信濃川での水運を生かした物流の街としても栄えた。

明治時代には、三条市で金属加工の技術を生かした包丁やハサミ、つめ切り、大工道具などの製造が、また燕市で「鎚起(ついき)銅器」と呼ばれる銅板を加工した急須や花器、洋食器、鍋、ケトルなどの製造が盛んになった。燕三条ではこれらのほとんどが家族経営や中小工場などで製造された結果、独特の職人街が形成された。

「家族経営」「中小工場」が多い街と聞くと、職人気質が高じて保守的な風潮があり、新しいものを取り入れずに衰退していくイメージを抱きがちだ。ただ燕三条はそうしたイメージとは正反対の「世界ブランド」の工場を数多く擁する魅力にあふれた街である。

たとえば包丁製造の藤次郎。料理人であれば誰もが知るブランド包丁を、世界50カ国に輸出している。諏訪田製作所のつめ切りも高級つめ切りとして知られ、世界のネイリストや医療関係者の間で高い評価を受ける。これらの工場の多くはすでに創業世代から代替わりして、3代目や4代目の時代を迎えている。若きオーナーたちはこの伝統技術を世界の舞台に持ち出し、世界ブランドへと昇華させている。