対話型組織開発――その理論的系譜と実践
対話型組織開発――その理論的系譜と実践(ジャルヴァース・R・ブッシュ、ロバート・J・マーシャク 著/中村和彦 訳/英治出版/5000円+税/645ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Gervase R. Bushe●加サイモンフレイザー大学ビジネススクール教授。専門はリーダーシップと組織開発。アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)の研究で著名。
Robert J. Marshak●米アメリカン大学公共政策大学院オーガニゼーション・デベロップメント(OD)プログラム名誉上級研究員。組織開発コンサルタントとして著名。

価値観の転換を促す取り組みが不可欠

評者 スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田昌治

近年、日本企業の人事・人材開発関連の部署において関心が高まっているのが「組織開発」(OD)だ。組織開発部という部署を新設した会社も少なくない。米国発の、組織をより効果的に機能させるための「組織開発」自体はとくに目新しいものではない。しかし今、脚光を浴びているのは昔ながらのデータ分析をもとにした(他者による)診断型のアプローチではない。近年開発され、ワールドカフェやオープンスペースなどの手法で知られるようになっている、対話を通して自分たちの見方や前提の見直し、意味の形成、創発を呼び起こそうという「対話型組織開発」だ。

この対話型のアプローチが日本で注目される理由は、平成の30年間、改革の必要性が叫ばれ続け、それなりの努力がなされてきたにもかかわらず、結果が出ていないためだ。社員のモチベーションは依然として下降の一途をたどっており、労働生産性も先進国の中では突出して低いままの状態が続く。多くの日本企業が直面するこの「組織の機能不全」現象は、今や制度変革やデータ分析などでは解決不能な喫緊の経営課題として認識されるようになっている。

ただ、もともと日本が抱えるこの種の問題は、欧米には見られぬ「上司と部下との対話がそもそも成立しない」という根深い構造が根底にある。それゆえコミュニケーション活動のような一時的、部分的な取り組みでは解決されることのない課題だ。つまり、本書でも紹介されている「対話型プロセス・コンサルテーション」のような、組織全体の価値観の転換を促す取り組みが不可欠なのである。

にもかかわらず現時点の日本企業で展開されている対話型組織開発は、「場を運営する手法」にとどまるものが多い。仮にこのままで推移し、部分的効果しか期待しえない状況が続くなら、組織開発に向いた関心も急速にしぼむだろう。

本書の後半の実践パートでは「対話型」アプローチに関する興味深い事例がいくつも取り上げられている。ただ、残念だがそこに日本での事例はない。しかし、日本ではすでに30年以上も前から、日本の組織の特殊な事情や特有の問題を踏まえた「組織風土改革」と称する広義の対話型組織開発アプローチが先行的に存在していることを忘れてはならない。

日本を本当の意味で変えていく役割を果たしうるテーマだけに、本書を通して「対話型」の本質的な部分に関する理解が進むことを期待したい。