現代2 安定成長期から構造改革期(1973-2010) (岩波講座 日本経済の歴史 第6巻)
日本経済の歴史6 現代2 安定成長期から構造改革期(1973-2010) (深尾京司、中村尚史、中林真幸 編/岩波書店/3800円+税/236+58+ⅹページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
ふかお・きょうじ●一橋大学経済研究所教授・日本貿易振興機構アジア経済研究所長。1956年生まれ。研究分野はマクロ経済学、国際経済学、経済史。
なかむら・なおふみ●東京大学社会科学研究所比較現代経済部門教授。1966年生まれ。研究分野は日本経済史、日本経営史、鉄道史、地域経済史。
なかばやし・まさき●東京大学社会科学研究所比較現代経済部門教授。1969年生まれ。研究分野は経済史、経営史、取引システム、比較制度分析。

正しい診断なくして適切な処方箋は出せず

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

デフレを克服すれば、高成長がもたらされ、財政も社会保障の問題も解決可能として開始されたのがアベノミクスだった。景気回復は続くが、5年以上が経過する今も、インフレ醸成はままならず、近年の日本銀行は、政策の綻びを繕うのに汲々としている。正しい診断を基に、適切な処方箋が用意されていたのか。

本書は、日本を代表する各専門分野の経済学者が高度成長期の終焉した1970年代初めから近年までの日本経済を分析したものだ。90年代以降の長期停滞を供給側から分析すると、成長減速の8割が労働生産性上昇率の低下による。背景には、全要素生産性の低迷、収益性低迷による資本装備率の低迷、非正規雇用の増加などによる労働の質の低下がある。デフレによる実質金利上昇で長期停滞が生じたという診断とは異なる。

不良債権問題が長期停滞の主因ではなかったことも示す。2000年代前半にこの問題は解消したが、元の高い成長には戻らなかった。潜在成長率が低下し、実物投資の機会が減ったにもかかわらず、金融緩和を続けたから、収益性の低い分野に資金が流れ、不良債権化したのではないか。

米英では、90年代以降、収益性の高いIT投資が活発化し成長を牽引した。その際、組織改革が不可欠だったが、その意思を持たない日本企業はIT投資を増やさなかった。今回のデジタル革命では、絶対的な人手不足に直面しており、組織改革とセットでIT投資を積極化するだろうか。

評者が最も注目したのが製造業の空洞化問題である。90年代以降、大企業を中心に製造業が海外に生産工程を移転させた。高収益の研究開発やアフターサービスを国内に残し、低収益の労働集約的な生産工程を海外に移転したのだから、皆、望ましいと考えていた。しかし、生産性の高い大企業の工場が閉鎖され、中小企業へのイノベーションの波及も滞り、製造業全体の全要素生産性に悪影響が生じた。今後、デジタル革命の進展で、サービス分野でもオフショアリングが進む。より大きな影響が生じるのではないか。

社会保障給付の増大で、公的債務の膨張が続くが、同時に資本蓄積の原資となる国民純貯蓄も大きく減少している。増税で公的債務問題を片づけても、国民純貯蓄の減少による低成長問題を解決できないことを示唆するなど、興味深い分析が満載だ。正しい診断なしには、適切な処方箋を準備できない。今後の経済政策を考える上での必読書である。