ワコールが2019年春にオープンする予定の次世代型インナーウエアショップ。この店舗で3DボディスキャナーやAIを活用した接客を試験的に運用したうえで、直営店や百貨店の売り場などで同様のサービスを導入する予定だ(写真:ワコールホールディングス)

ワコールが創業したのは、戦後間もない1946年。ファッションにおいても欧米化の波が押し寄せ始めていた当時、創業者の故・塚本幸一氏は、「日本の女性を美しくしたい」という思いのもと、洋装であるブラジャーの大量生産に着手した。

それから半世紀以上。ブラジャーが日本人女性に広く普及した現在、ワコールには“逆風”が吹きつつある。ユニクロの「ブラトップ」のようなカップ付きのインナーや、ワイヤレスで締め付け感のないブラジャーなど、安価で楽な着心地の下着が好まれる傾向が強まってきた。さらに主要販路である百貨店や量販店も、若者離れや集客力の鈍化が叫ばれ、市場環境は厳しさを増している。

一方、米国や中国など海外事業では順調に利益を伸ばしている。国内と海外双方で、この先どう顧客を獲得していくのか。下着以外の新事業への挑戦はあるのか。ワコールホールディングスの安原弘展社長に聞いた。

“着心地”の意味が誤解されている

──最近は「ブラトップ」など、安くて楽な着心地の下着が売れています。

着心地重視なのは今の世界的なトレンドでもある。スポーツカジュアルの人気が高い半面、セクシー系のデザインが女性にとってマイナストレンドになっている。「レースがあってかわいい」という商品よりも、しっかりとした機能や着心地を重視した商品が消費者の選択肢に入ってきている。当社もそういう商品を作っているし、そのことにどうこう言うつもりはない。

ただ、(ブラジャーにおいては)“着心地”の意味が誤解されている。「ワイヤーがなければ着心地がいい」と言うなら、その意味での着心地のよさの究極がヌードなんです。ヌードが本当にいいのかというと、そうではないでしょう。

ブラジャーには体型を補正することの意味がある。ブラジャーの着心地、快適さとはどういうことなのかをきちんと伝える必要がある。サイズの合ったブラジャーを着ければ、身だしなみからスタイルまできれいになって気持ちもいい。だが、サイズが合わないと「きつい」「痛い」となる。当社の調べでは、7割近くの女性がブラジャーのサイズを間違えて着ている。

「下着売り場に来てくれたらサイズを測るのに」と思うが、商品購入が前提の採寸だと勘違いされている。特に百貨店は販売員が待ちかまえているイメージが強い。

極論を言えば、20歳の人に「高い商品を買ってくれ」と言うつもりはない。だけど下着を着る以上、サイズの合ったものを身に着けてほしい。そのことで、ブラジャーは嫌なものではなくなるはず。それと用途によっていろいろな下着があるということも、もっと伝えていかなければならない。多くの女性は下着よりも化粧品のほうが、はるかに興味を持っている。これが入っていたら美白に効きます、とかね。でも下着はワイヤーやレースの有無くらいしか気にされない。

5秒で自動採寸できる店舗も展開

──特に若い女性にとっては、ワコールの売り場は敷居の高いイメージがあるかもしれません。若年層を含め多くの人が来店してくれるお店をどう作りますか。

お客様にとって、本当にうちの売り場は来やすいのかと改めて考えた。そこで昨年から今年にかけて、百貨店のワコールの売り場で「無料採寸できます」「測るだけで売りません」と強調した催しを試験的に行った。最初は「無料と言うと、いつもはおカネを取っているようじゃないか」と反対したんだけどね。

そうしたら20代も含め新しいお客様がたくさん足を運んでくれた。結果的に採寸した後、「商品も売ってください」と言う方も大勢いた。要するに「自分のサイズを知りたい」という潜在需要は若い人の中にもある。でも多くの方が、「売り場に行ったら買わないといけない」と思っていた。

ワコールの独自技術を応用し、正確なバストサイズを自動的に計測する3Dボディスキャナー。販売員による採寸を嫌だと感じていた人の来店も促す狙いだ(写真:ワコールホールディングス)

だから今後は来店しやすい売り場作りにも力を入れていきたい。販売員による採寸が嫌な人もいるので、試着室に入ったら5秒で自動的にサイズが測れるシステムを導入した実験店も近く展開する予定だ。試着室に入ると自分のデータが出て、どういう着心地を好むかをタブレットで選ぶとオススメ商品が出てくる、という仕組みがあらかたできている。

売り場の入り口が嫌だと思っている方たちが、接客の少ないお店に流れる。ネット通販やユニクロ(の勢い)が顕著になってきた中で、足元を見つめ直して気づいたことだった。特にユニクロは年齢を問わない。でも下着専門店は採寸の販売員をたくさん抱えているわけで、そこがネット通販やユニクロとは違う。その意味では、既存の下着業界のコンペティターはユニクロだと社内では言い切っている。既存のライバル、コンペティターの概念はこの先一層変わるだろう。思わぬところから出てくる、これからも。

──海外事業での採算確保に悩む会社も多い中、アメリカや中国など海外では順調に利益を伸ばしています。

海外はそれなりに道筋がついてきた。ヨーロッパは安定軌道に入り、中国でも利益が出る仕組みになってきた。最近はアメリカで直営店1号店を出すなど、各国でいろんなトライアルをやっている。マーケット全体で見ると、どの国も日本よりは拡大余地がある。

ワコールブランドのポジションは海外でも高級品で絞り、利益を伴わない拡大はしない。中心商品のブラジャーは、ほとんどを自社の資本が入った関連工場で作っている。そのことでコストが高いと言われることもあるが、縫製の現場から店頭まで丁寧に管理して、品質を担保する。1つの商品を世界で売るのではなく、各国の女性の体型や色の好みに合わせた開発も功を奏している。