去る7月4日の早朝、上海のオフィス街・陸家嘴(りくかし)で一人の女性が、習近平の顔に墨汁をぶっかけた。もちろん、中国国家主席の習近平本人に、ではない。共産党政権のプロパガンダ用看板に印刷した写真に、である。

それなりに周到な準備をしたパフォーマンスだったのであろう。「中国共産党による洗脳に反対する」、「習近平の独裁的で専制的な暴政に反対する」と言明、それがSNS上に流れたわけなので、ともかく穏やかではなかった。

個人崇拝にまで達した

今年に入って、習近平の権勢拡大はとどまるところを知らない。「党の核心」たる「習思想」を一心に学習しようという、個人崇拝にまで進んでいった。

しかし権力者の恣意・独力ばかりで、それがかなうはずもない。物を言うのは古今東西、権力者をとりまく人々の支持・忖度(そんたく)・迎合であった。そうしたドミノ現象が起こると、異論はことごとく封殺されてしまうのであって、今回もどうやら、同じ様相を呈している。

「今回の墨汁事件は、上海の若い女性が「みんな薄々は思っていたけれど誰もしなかったことをした」という、童話の「裸の王様」みたいな事件である。逆に言えば、習近平政権成立以来の中国国内では、この程度の行為すらもみんなビビってやらなくなっていたのだ。」