週刊東洋経済 2018年8/25号
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「水道、電気、ガス、宅急便。」。1997年の正月にヤマト運輸は、こんな広告を打った。そこに込めたのは、宅急便を毎日使えて当たり前と思われるサービスにしたいという思いだ。

それから20年超。ヤマトの宅急便を含む宅配便全体の取扱個数は、年40億個を超える。97年当時と比べ約3倍の規模である。ヤマトは現在、佐川急便や日本郵便を抑え最大手として、半分近くのシェアを有する。宅急便は今や水道、電気、ガスと並ぶ“社会インフラ”になった。

社員の労働問題を発端にヤマトショックが発生

だが今、その社会インフラに重大なきしみが生じている。

「インフラを維持するために一度、運賃のベースを上げる。たいへん心苦しいが、ご理解を賜りたい」。ヤマト運輸の親会社・ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長は、2017年4月に開いた会見でそう語った。直前から観測は報じられていたが、この会見で初めて詳細が明らかになった。

その場で山内社長らは、社員の労働環境を改善するため宅急便の荷受け量を抑制すると発表。同時に、17年9月をメドに宅急便取扱量の約9割を占める法人向けの運賃値上げを求めていくほか、個人向け料金も消費増税時を除き27年ぶりに引き上げるとした。

このときヤマトの示した方針が物流業界やその取引先にもたらした激震の大きさから、「ヤマトショック」といわれる。人手不足で運賃が上昇し、さらにはモノが運べなくなるという「物流危機」が本格到来した瞬間だった。

ヤマトショックが起きた直接的原因は、ヤマトの労働問題にある。16年11月、ヤマトの支店が残業代の未払いなどによる労働基準法違反で、労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが発覚。17年3月期に過去2年分、約190億円の未払い残業代を払うことになり、営業利益は前期比で半減した。深刻な人手不足に加え、ネット通販(EC)を中心に急拡大する荷物の量に、宅配の現場が耐えきれなかった。

ECの市場規模は17年に前年比9%増の約16.5兆円となり、その拡大はとどまるところを知らない。人手不足の実態を含め、ヤマトHD経営陣はこの流れを読めなかったことを認めている。

とりわけヤマトの想定を超えていたのが、世界最大のEC事業者・アマゾンの成長スピードだ。アマゾンジャパンは日本市場で1.3兆円(17年度)の売上高があり、取り扱う荷物の個数は年間5億個といわれている。アマゾンの配送委託先はヤマトだけに限らないが、5億個はヤマトが取り扱う宅急便全体の約3割に当たる。

アマゾンとの値上げ交渉は18年1月に決着した。値上げ幅について両社は明らかにしていないが、1個当たり平均280円前後から400円強へと約4割引き上げたものとみられる。一連の値上げについて、ヤマト運輸の営業部門を率いる小菅泰治常務執行役員は「ほぼ一巡した」と、本誌の取材に対して語っている(→インタビュー記事へ)。

終わらない値上げ 物流各社は恩恵享受

では、ヤマトショックを起点とした物流危機はもう過ぎ去ったのか。答えはノーだ。

「これから第2弾、第3弾がやってくる」。ある日用品通販会社の物流業務担当者はそう漏らす。同社は17年5月ごろにヤマトから値上げを要請され、同10月に受け入れた。ただこの先「併用している日本郵便からの値上げも待ち受けている。最終的にはヤマトよりも高くなりそうだ」(同)という。

「ヤマトから取引停止の通告を受けたので、今は日本郵便と佐川だけを使っている」と話すのは、アパレル雑貨などを取り扱う通販会社の幹部だ。今のところ日本郵便、佐川から厳しい値上げ要請は来ていないが、「ある程度の物量を任せるには、大手以外に選択肢がないのがつらい」(同)。

実際、宅配便のシェアは大手3社で9割超を占める。通販などを手掛ける荷主からすると、大手配送会社に生殺与奪の権を握られていると言っても過言ではない。

一方で、物流各社の業績は至って好調だ。各社とも運賃の値上げなどが功を奏し、佐川の親会社・SGホールディングスは19年3月期、ヤマトHDは20年3月期に最高純益を見込む。日本郵便も19年3月期は当初、郵便物の減少や人件費の増加で純減益を見込んでいたが、一転純増益になる公算が大きい。ゆうパックの取扱数量増加や単価上昇が要因だ。

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