辻範明(つじ・のりあき)/1952年生まれ。1975年長谷工コーポレーション入社。1999年に取締役第一事業部長、2005年に代表取締役専務執行役員。2014年4月より代表取締役社長(撮影:今井康一)

新聞の折り込みチラシや電車内で日々見かけるマンションの広告。華やかな写真のそばに売主として、野村不動産や住友不動産といった大手デベロッパーの名が添えられるが、「建てた会社」に注目することはあまりないかもしれない。

日本で最もマンションを建ててきた会社、長谷工コーポレーション。1968年にマンション事業をスタートして以来、たった半世紀で全国62万戸以上のマンションを手掛けてきた(2018年6月末時点)。首都圏ではおよそ10戸のうち3戸は長谷工の物件だ。

2017年度の業績は売上高8132億円(前期比5.3%増)、営業利益1008億円(同13.2%増)と、いずれも過去最高を更新。建設業界の頂点に君臨する「スーパーゼネコン」の一角、竹中工務店(営業利益1079億円)にも肉薄する勢いを見せる。

トンネルやダム、オフィスに商業施設など幅広く工事を手掛けるゼネコンとは対照的に、脇目も振らずマンション建設に打ち込んできた長谷工にとって、同社の歴史を振り返ることはマンションの歴史をひもとくことでもある。足元の好景気で住宅需要は持ち直しているが、今後は総人口や世帯数の減少が待ち受ける。縮小し続けるパイを奪い合うのか、新機軸を打ち出すか。日本のマンション市場と歩みを共にしてきた辻範明社長を直撃した。

新たな間取りのニーズも出てくる

──活況が続くマンション市況ですが、今後も勢いは継続しますか?

急激な落ちこみは訪れず、2~3年は継続していくとみている。ひょっとすると2020年の東京五輪を過ぎても高い水準で推移するかもしれない。確かに、今後は世帯数が減少して風向きも変わるだろう。ただ、新しいマンションに住みたいという欲求はつねにある。古いビルを建て替えてマンションにするとか、(核家族化などが進むことによって)3LDKから1DKや1LDKのような新しい間取りのニーズも出てくる。

加えて、都心の高額物件や超高層マンションは爆発的に売れる反面、郊外の交通が不便な場所では売れ行きが鈍い。でも細かく見てみると、都心の物件の値上がりを受けて、(比較的安価な)郊外物件が少しずつ売れ始めている。これまでは竣工後1年で売れ残り扱いされてしまっていた物件が、2年後に売れたケースもある。売り主のデベロッパーも、金利が安いため物件を売却して資金回収を急ぐ必要もない。叩き売りをしなくなったため、値崩れしないまま少しずつ売れているのが現状だ。

──マンション需要の高まりで、長谷工の業績はまさにうなぎ上りです。

僕は1975年に長谷工に入社して43年になるが、今の業績は過去最高。1990年代のバブルのときもここまでの水準じゃなかった。とはいえ、こんな数字が永続的に続くとは思っていない。いろいろな手を打ちながら、この水準をどう維持していくかを考えないとダメになる。足元の業績は本当にできすぎだから(笑)。

ほかの建築会社と違って、長谷工の特徴は自分で土地を探して、見つけた土地をデベロッパーに持ちこんで、工事をもらうこと。マンションばかりやってきたこともあって、設計や建築の人間、協力会社はみんなマンションに慣れている。数をこなせばこなすほど、どんどん上手になってくる。そういう積み重ねが、今の数字につながっているのだろう。

ただ、マンション事業はボラティリティが非常に高い。今みたいな好業績が続いていても、3年経ったらドカンと落ちる業種でもある。いいときはものすごくいいけど、その後ドカンと潰れそうになって、復活したかと思ったら、また潰れそうになる。そういう生き方をしてきた。

だから安心はできないけど、ドカンと落ちるのではなくて、なだらかに下りつつどこかで復活するようにしていきたい。もう1度落ちると僕は(長谷工社員として)3回目になる。落ちたとしても、できるだけ被害が少なくて済むような経営をしていきたい。

──あくまで外部環境が追い風になったと?

まさにそう。自分たちだけの力ではこうはならない。これまでの長引く不況を受けてゼネコンがリストラを断行した結果、社員も現場の職人も一気に減ってしまった。そんな状況で景気回復や東京五輪の開催決定を受けて官民ともに工事が増加したために、どの会社も人がまったく追いつかない。

となると、各社は得意な工事に資源を集中させる。スーパーゼネコンはマンションよりもビルや土木工事に注力し始めるから、結果としてマンションをやるゼネコンが減った。うちはマンション専業でやってきたから、競争相手が減ってラッキーだった。今の好業績はこういう側面が大きい。

62万戸のマンションを造ってきた強み

──本業のマンション建設だけでなく、修繕や仲介など周辺事業の育成にも力を入れています。

ストックビジネスは大きく伸ばすのは難しいけど、大きく凹むこともない。M&A(企業の合併・買収)も選択肢にはあるが、買い時は慎重に判断したい。今大事なのは、そういうチャンスがあったときに勝負できる体力を会社が持っておくこと。その場合は、大きな投資をしないと、事業として伸びないだろう。

うちの強みは、これまでに62万戸のマンションを造ってきたこと。図面からノウハウからすべて持っている。リフォーム子会社には建設現場経験者が在籍しているから、リフォームの工法についてもいろいろな提案ができる。外注する工事業者にとっても、安定してリフォームの工事を受けられる長谷工ならついてきてくれる。

辻社長は知見が不足するフィービジネスを手掛けることに不安があったと語る(写真:今井康一)

──マンション周辺事業を手掛ける子会社の長谷工アネシスが手掛けていた、マンション向けの電力供給事業を売却しました。

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