財政破綻後 危機のシナリオ分析
財政破綻後 危機のシナリオ分析(小林慶一郎 編著/日本経済新聞出版社/2000円+税/296ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
こばやし・けいいちろう●慶応義塾大学経済学部教授。1991年東京大学大学院計数工学科修士課程修了。通商産業省入省。米シカゴ大学大学院から博士号(Ph.D.)取得。通産省政策審議室、経済産業研究所上席研究員などを経て、2013年より現職。共著書に『日本経済の罠』など。

興味深い世代間の協調の論考

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

いくら精緻な財政健全化策を作っても、民主主義そのものに財政膨張をもたらす傾向があるのなら、役には立たない。前著の『財政と民主主義』では、財政規律を守る能力が民主主義には欠けるという視点から、それを補う制度設計を探った。今回のテーマは、財政危機回避の方策ではなく、財政危機後の対応策だ。

第1段階は応急措置で、資金枯渇に対し、積立金を取り崩す特別会計や執行を停止する支出項目の順位を決定する。国債価格の下落で損失を被る銀行への緊急支援も必要という。ただ、5年に及ぶ大規模な金融緩和で、日本銀行が長期金利を抑え込む能力を持つことはある程度実証された。一方で、為替市場のコントロールは難しい。財政危機の際、資本逃避を抑える資本規制や邦銀の外貨調達支援も必要となるのではないか。

第2段階は、財源が恒常的に減少する中、最低限行う公共サービスの事前の選別である。防衛や治安維持のための警察や災害救助、義務教育、救急医療、周産期医療などを継続すべき事業として掲げる。民間サービスの購入で公共サービスの一部は代替可能だが、購入資金を持たない弱者にダメージが集中する点も考慮する必要があるだろう。

医療については、財政破綻後に備え、現在から行うべき改革を論じる。二階建て医療保険制度の導入など、いずれも重要な提言ばかりだが、既得権者の存在ゆえ、改革は容易ではないはずだ。既存の医療サービス供給者が財政危機で倒産に追い込まれるから、改革可能となるのではないか。

民主主義は、世代を超えた問題の解決が苦手である。現世代が負担増に同意せず、拒否を唱えられない将来世代へツケを回すから、公的債務の膨張が続く。財政健全化が進まないのも、メリットを受けるのが将来世代で、現役世代は痛みを甘受するだけだからである。世代間の協調の余地はないのか、最後に興味深い論考が行われる。

将来世代の代弁者とすべく、本書は、政治的な独立性を付与した世代間公平確保委員会の設置案を紹介する。また、「仮想将来人」として、将来世代の役割を演じる人が実際に議論に参加すると、その人物はあたかも将来世代の視点で物事を考えるようになる、という実験結果も紹介する。

われわれは利己的だが、アダム・スミスが『道徳感情論』で強調した共感の作用を活用し、将来世代に対する利他性を強化できれば、問題解決の糸口になるのかもしれない。