井上ひさし氏は、日本語における外来語の用い方について注意を促す。具体的には、新聞記事を引用してこう論じる。

〈昨日の朝日新聞の夕刊から、めぼしい外来語を拾ってみたら、次のような結果になりました。セーフガード、クラフツマンシップ、プロジェクト、リフォーム、メンテナンス、ワインクーラー、オータムカレッジ、「チリ産キウイフルーツのプロモーション活動」、「JR目黒駅にレストランやショッピングフロアが入った駅ビル『Hilltop Garden MEGURO』がオープン」(以上、朝日新聞二○○一年十月二十五日付夕刊)

セーフガード。これは皆さん、意味をご存じでしょう。おそらく、七割か八割の方はご存じだと思います。緊急輸入制限措置という、WTO(世界貿易機関)でも認められている政策ですね。つまり、中国産のネギとかブタ肉などが、日本のものよりもはるかに安いので、結局日本の地場産業がつぶれていく。そういうときには輸入を制限してもいい、という制度です。

クラフツマンシップ、わかりますよね。わかるけれども、なぜ職人魂ではいけないのでしょう。職人魂では、たいしたことないのです。でも、この記事は、和、つまり日本の家具に、再び照明が当たってきたという趣旨なのです。「このたんすをリフォームした大津市の骨とう店」、骨董店でリフォームということはないでしょうに(笑)。文章を書くのが専門の新聞記者でさえ、このありさまです〉(井上ひさし『日本語教室』新潮新書、2011年、28~29ページ)。

井上氏には、ユーモアのセンスがある。それだから、本来、古い物をそのまま販売する骨董店が「たんすをリフォームした」という表現のズレが気になるのだ。ユーモアとは、日常的に用いられる言葉を若干、異なる仕方で用いる技法だ。ただし、この新聞記者は、リフォームの意味をよく考えずに使っているので、ユーモアにはなっていない。骨董品のたんすならば、リフォームではなく、修繕を用いたほうがいい。

それではなぜ、この記事を書いた記者は、リフォームという言葉を用いたのだろうか。それは、リフォームという英語由来の外来語は意味の幅が広く、使い勝手がいいからだ。井上氏はこう説明する。