週刊東洋経済 2018年7/21号
書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

子どもたちはデジタル授業に夢中

小学校必修化は秒読み 動き始めた先進公立校

「みなさんおはようございます。今日のテーマは“デジタルアートに挑戦”です!」

東京西部にある府中市立府中第三小学校の図工の時間は、木製のいすを作るのでも、リンゴをデッサンするのでもない。30人ほどの児童が食い入るように見つめるのは、1人1台ずつ配られたタブレットPCの画面だ。

6年生の図工を担当する山内佑輔先生は、慣れた手つきでタブレットをテレビモニターにつなぎ、授業内容の説明を始めた。使用する教材は、コード(文字列)を入力しないビジュアルプログラミングの「Viscuit(ビスケット)」。画面上に指で描いた絵に、上下左右に動く、数を増やすなどの指示を与えることで、簡単にアニメーションを作ることができる。

東京・府中市立府中第三小学校

百花繚乱デジタルアート

図工担当の山内先生(上)。教材の「Viscuit」は、画面上に指で描いた絵に、上下左右に動くなどの指示を与えることでアニメーションを作れる(撮影:今 祥雄)

その日の授業の目標は、ビスケットで作ったアニメーションを真っ暗な教室の壁や窓にプロジェクターで投影し、プロジェクションマッピングを鑑賞することだ。

1人1作品ずつ完成させると、自分の作品を改良し続けるチームと、鑑賞の“会場”となる教室に紙コップを並べてアニメーションの映り方を工夫するチームの二手に分かれた。

「わぁキレイ!」「すごいすごい!」。鑑賞会が始まると、教室は児童たちの大歓声と七色の光でいっぱいになった。山内先生は、「自分の作品には部屋や空間を変える力があると知ってほしかった。『チームラボ』のようなプロのデジタルアートを見に行ったときに、『これやったことある!』『私もできる!』と思ってもらうための種まきだ」と語る。

授業の最後にプロジェクションマッピングを鑑賞した(撮影:今 祥雄)

授業後の休み時間に何人かの児童から感想を聞くと、「タブレットの操作が少し難しかった」「プログラミングは楽しい。もっとやってみたい!」。興奮冷めやらぬ様子で校庭に走っていった。

2020年度に小学校でプログラミングが必修化

プログラミングを授業に導入する小学校は、府中第三小に限らず、全国で増えている。昨年3月に公示された小学校の「新学習指導要領」に、初めてプログラミングが盛り込まれたからだ。

再来年の2020年度に小学校でプログラミング体験が必修化。翌21年度には中学校の技術・家庭科でプログラミングに関する内容が拡充され、22年度には高等学校でプログラミングを含む「情報Ⅰ」が必修となる。

さらに24年度には、大学入試センター試験に替わる「大学入学共通テスト」に「情報Ⅰ」が国語や数学のような基礎的科目として導入される見通し。現時点で小学6年生以下の子どもは、国立大学などを受験するうえでプログラミングの知識や能力が欠かせなくなるということだ。

ただし、小学校でのプログラミング教育の狙いは、「プログラマーやエンジニアになってもらおうということではない」と文部科学省・情報教育振興室長の安彦広斉(あびこ・こうせい)氏は強調する。あくまで日頃の生活とコンピュータとの関係を知り、プログラミングの考え方を身に付けることに重点を置く。

最終的にどのような授業を行うかは各学校が決めるが、キーボードでコードを打ち込むような本格的なプログラミングを学ぶのは基本的に中学校からだ。

小学校では府中第三小の図工のように、算数や理科といった教科の中でプログラミングを体験し、慣れ親しむというのが一般的だ。教員向けのプログラミング教育支援を行うNPO法人みんなのコードの利根川裕太代表理事は、「子どもたちにプログラミングを学ぶきっかけを与えるのが、小学校の役目だ」と語る。

東京・杉並区立天沼小学校

児童1人1台タブレット

授業内容の自由度が比較的高い「総合的な学習の時間」にプログラミングを取り入れる学校も多い。

JR中央線荻窪駅から徒歩約12分。杉並区立天沼(あまぬま)小学校は、各教室に電子黒板が備え付けられ、4年生以上の児童1人につき1台のタブレットが貸与されるIT先進校だ。「タブレットは日常的に活用する文房具の一つ」(松野泰一校長)。プログラミング教育の導入も早く、全国各地の学校関係者や国会議員などの視察が絶えない。

同校は杉並区初の統合新校として2008年に誕生した(撮影:梅谷秀司)

6月中旬に同校を訪れると、6年生の総合学習の時間で「プログラミングをしてロボットを動かそう」と題した授業を行っていた。

教材は「WeDo2.0」。レゴブロックを組み立ててロボットを作り、タブレット画面上のブロックを動かしてプログラミングする。2~3人から成るチームが一つずつロボットを作り、全員の前で動かしてみせるのが授業のゴールだ。

あるチームは、スマートフォンを置くと「スマホ依存に注意してください」と音声が流れるロボットを作った。音声も児童自身が録音し、スマホを置くとすぐに再生されるようプログラムを組んだ。ある男子児童は、「考えていたよりも難しかった」と話す。

タブレット教材の「WeDo2.0」。レゴブロックを組み立ててロボットを作り、画面上の命令ブロックを動かしてプログラミングする(撮影:梅谷秀司)

ほかにも、荷物を運びながら床掃除をするロボットなど、実生活で役に立つものを作っていく。「プログラミングを通して、アイデアとその実現との間にある過程を学んでほしい」(松野校長)。

東京・中野区立緑野小学校

ドローンをプログラムせよ

“やっちゃえ”MIDORINO──。大手自動車メーカーのテレビCMを彷彿とさせるスローガンを掲げているのは、東京・中野区北部にある緑野小学校。16年に着任した駒﨑彰一校長は、官民一体でプログラミング教育の普及を目指す「未来の学びコンソーシアム」の委員も務める改革派だ。

「学校は、実社会とのつながりをもっと増やすべき」と、校長自らベンチャー企業の社長に協力を仰ぎ、6年生の総合学習にドローンを動かすプログラミングを導入した。タブレットの画面上で命令ブロックを動かし、上昇や前進、後退といった動きをドローンに指示する。

iPadの画面上で命令ブロックを動かし、上昇や前進などの動きをドローンに指示する。ドローンが物流など社会的課題の解決に役立っていることも学ぶ。同校のスローガンは「“やっちゃえ” MIDORINO」

児童たちは、障害物をかわしてゴールに到達させるレースを通してプログラミングの基本を学んだほか、ドローンによる空撮や、荷物を運ぶ“ドローン物流”も体験。プログラミングでドローンを動かすことが、社会的課題の解決にどうつながるかを理解するためだ。

緑野小は音楽の授業でも、ヤマハのタブレット用音声合成ソフト「ボーカロイド教育版」を活用してプログラミングに慣れ親しむ機会を提供している。

目標は図工の展覧会の作品BGMを作ること。6年生の児童たちが一丸となり、「こんな曲を作りたい」というアイデアを基に、試行錯誤しながらタブレットの画面上でボーカロイドに指示を出し、オリジナルの楽曲を完成させた。駒﨑校長は、「作曲を身近に感じられるのもプログラミングならでは」と話す。

自治体も動き始めた ソフトバンクと連携

大阪・池田市  全小中学校にペッパー導入

学校だけでなく、地方自治体でも先進事例が生まれ始めている。

大阪・池田市は17年4月、市内の全小中学校にソフトバンクグループの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」を導入した。

ソフトバンクグループの人型ロボット「Pepper」。池田市立石橋小学校は8台導入している(撮影:ヒラオカスタジオ)

ソフトバンクグループはペッパーやプログラミング教材に加え、専用パソコンやWi-Fiルーターなどを全国17の自治体、282校に3年間無償で貸し出している。

中でも池田市立石橋小学校は、先行実施校として他校よりも3カ月早く、ペッパーを活用したプログラミングの授業を始めた。

6月末のある朝、石橋小では30人ほどの6年生が、8台のペッパーと同じ教室でパソコンの画面を熱心にのぞき込んでいた。

「今日は、みんな賢そうな顔しているなぁ」と笑いながら授業を始めたのは、総合学習の時間を担当する齋藤遊先生だ。根っからの文系だが、プログラミング教育を任されてからは市販のプログラミング参考書などで必死に勉強してきた。ソフトバンクグループ作成の教師用指導書も参考にしているという。

総合学習の時間を担当する齋藤先生(撮影:ヒラオカスタジオ)

使用する教材は「Robo Blocks(ロボブロックス)」。ビジュアルプログラミングの「Scratch(スクラッチ)」をベースに開発されたものだ。

児童たちは、ペッパーの動きや話す内容、声の高さなどをブロックで指示していく。プログラミングがうまくいっているかどうかは、画面上のバーチャルロボットで確認できる。「うまくできないな」「このブロックはこっちじゃない?」。子どもたちは教え合いながら、少しずつプログラミングへの理解を深めていく。

プラスの視点 アクセスランキング バックナンバー一覧 TOP