経営者はさまざまな場面で決断を求められる。連載第2回は井上礼之会長の「決断力」に迫る(撮影:今井康一)

──M&A巧者として有名な日本電産の永守信重会長は、潰れそうな会社を安値で買う手法で有名です。ダイキンもM&A巧者と評されますが、OYLインダストリーズの買収では競合他社を圧倒する価格で勝ち取りました。必ずしも安く買うという手法ではないように思います。

永守さんは私のポンユウ(親しい友人)で、彼の経営には感心するところがある。が、M&Aの手法はおっしゃるとおり全然違う。

私の場合、M&Aは「時を買う」「人を買う」「機会・場、人材育成の場を買う」。特に「時を買う」「人を買う」を重視している。

20年前から自前主義では限界があると思っていた。自前で人を雇うこともあるが、それでは間に合わない。コンペティターに半歩、一歩リードするためには、買収や提携で時を買う。

約30社の買収はほぼすべて成功

今、日本企業が海外企業を買収した場合、15%くらいしか成功していないと言われていますよね。

私が社長になって以降、30社程度の買収を行った。その中で大きいのは、2007年のOYL(2438億円)と2012年のグッドマン(2900億円)。小さいのはここ数年だけでも10社ほど買収した。自分で言うのはいかんが、ほとんど成功しているという自負がある。

何が成功かは基準の取り方でも違う。国際会計基準(IFRS)のように償却しないか、20年で定額償却するかでも違う。当社は20年定額償却で、償却後に買収前よりもその会社が利益を上げていたら成功と見ている。

安く買うことも大事だが、買った後が勝負だ。皆に徹底しているのは、どんな会社でも歴史があり、企業文化があるということ。その企業文化を絶対に侵さないようにしないといかん。

買収して少なくとも2~3年は、むこうの会社からノウハウ、技術を教えてもらうようにする。逆に、相手から「この技術を移転してください」「こういう人を送ってください」というリクエストがあれば、われわれが応える。お互いにないものを求め合って買収したのだから、お互いが求めるものを出そうとすべきで、それ以外は一切するなと言っている。

社長になって初の買収はドイツの会社だった(1998年の「クパ」)。そのときにすごく勉強させられたことがある。

「この会社を買って日本人がようけ来るのか」「私が持つ責任権限はどうなるのか」「販売網を再編淘汰するのか」「処遇賃金はどうなるのか」といったことを言われた。

それに対して、「あなた方のような人がおらんから買収したのであって、あなた方がやってくれないと困る。最低5年はおるとの約束やなかったら買収しない」と契約のときに言った。それで非常にやる気を出してくれましてね。買収は非常にうまくいった。

何年間のEBITDA(償却前利益)で回収できるかどうか。それだけではなく、その後のやり方によってはこれだけの可能性があるのだから、投資回収が10年、12年であってもこの会社が欲しいと思ったら買うべきなんです。そして、買ってから良くするのが経営力であって、それができなかったら自分自身の責任を問うたらいい。

──そうしたM&Aの手法で成功したのは空調マーケットが世界的に伸びているから、という面はありますか。