池波正太郎氏の『男の作法』を読み返していた。若き日に、氏が銀座のすし屋をくわえようじで後にしようとした際にとがめられたエピソードがある。「若いうちにそんな恰好しちゃいけない。くわえようじは、みっともないからおよしなさい」と年配の店主はチクリと客である氏に伝える。

作法は、法律や社会ルールと違い妥当か否かが明白ではない。場を共有し向き合う相手との健全な関係を維持するための配慮ある行動や発言であり、絶対的に正しいというものはない。池波氏は序章で、男がどのように生きていくかという問題は、その人が生きている時代そのものと切っても切れないかかわりを持っている、かつては「男の常識」とされていたことも時代が変わればそうともいえなくなるので、考えるきっかけの一つにしてほしい、としている。生活を営む社会の文化や、時代の価値観によって変わるのが「男の作法」だというのだ。