「航海長、ちょっと俺の部屋に来い」

とある艦艇内での昼食中、私の正面の席に座っていた副長が、押し殺すような声で私に言った。

このとき、私の階級は二等海尉(海軍中尉)、艦では運航の責任者である航海長の任に就いていた。とはいえ、まだ27歳の若造で、幹部としては駆け出し。海の恐ろしさも、艦のおきても、軍組織のしきたりもわかっていなかった。

一方、私を自分の部屋に連れ出した副長は艦内ナンバー2の立場であり、年齢も私より二回り上。近々定年を迎えるベテランの戦闘艦乗りだった。副長の部屋に入るなり怒鳴られた。

「おまえは何様だ!」

「航海長ですけど」

「そういうことを聞いているんじゃない。艦長に対して、あの言い草は何だ!」

「いけませんか?」

「いい悪い以前の問題だろ。ここは艦長の船だ。おまえが合わせるんだ。艦長に注文するな!」

軍艦の幹部は全員が、士官室という部屋で食事を取る。その際、艦長より先に食べ始めてはならず、艦長より長く食べ続けてもいけない。艦長がはしをつけると全員が一斉に食事を始め、艦長の食べるペースに合わせながら、艦長とほぼ同時に全員が食事を終える。