経済学者が贈る 未来への羅針盤 (経済セミナー増刊)
経済学者が贈る 未来への羅針盤 (経済セミナー増刊)(筆者:森棟公夫/吉川 洋/武藤滋夫/金子 守/矢野 誠/小田切宏之/清家 篤/伊藤隆敏/ 須田美矢子/井堀利宏/西村周三/瀬古美喜/八田達夫/橘木俊詔/神野直彦/西村和雄/野口悠紀雄/経済セミナー編集部 編/日本評論社/1000円+税/76ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
筆者:森棟公夫/吉川 洋/武藤滋夫/金子 守/矢野 誠/小田切宏之/清家 篤/伊藤隆敏/ 須田美矢子/井堀利宏/西村周三/瀬古美喜/八田達夫/橘木俊詔/神野直彦/西村和雄/野口悠紀雄/経済セミナー編集部 編

傾聴に値する複眼的な関心

評者 慶応義塾大学経済学部教授 土居丈朗

大成した経済学者は、学生時代からどのような関心を持ち、どのような経験を経て経済学の研究を深め、現状や将来の課題をどう見ているか。本書には17人の経済学者のメッセージがまとめられている。

本書に自らのメッセージを寄せた経済学者は、資本主義と社会主義が対立する冷戦時代に研究者の道を歩み始めた。その多くは、(1ドル=360円の固定相場下で)米国の大学院に留学した。まだ、日本の大学院では今のような十分な経済学の研究環境が整っていなかった時期でもある。

そして、冷戦終結という予期しなかった時代の大きな変化を経験しながら、経済学の水準を高めていった。その賢人の言葉には、性質は異なるものの予期できない時代の大きな変化に直面する現在、どのような姿勢で臨めばよいかについて多くの示唆が得られる。中でも、教養と実務、理論と実践、他分野との交流といったように、多くの人や意見に触れて、複眼的な関心を持つことの重要性を、多くの経済学者が表現は異なるものの共通して挙げている。異論に対して不寛容さが増している今日、実に傾聴に値する。

政策決定に影響力のある政府等の会議の委員にも就いて、官僚や政治家と渡り合った経験を持つ経済学者は、本書でこれからの政策を担う人へのメッセージを寄せている。経済理論と現実とのギャップの間で、それをどう乗り越えてきたか、経験者だから語れる貴重なエピソードも盛り込まれている。

そして、共通して説いているといえるのが、これからの政策形成では、証拠に基づく政策立案(EBPM)を進めるべきことである。目下、政府はEBPMを推進している。しかし、極めて硬い壁に直面しているように評者は思う。それは、官僚の無謬性である。EBPMは、データを用いた客観的な分析結果という証拠(エビデンス)に立脚しなければならない。現政権や前任者にとって不都合なエビデンスも、直視しなければならない。EBPMの下では、忖度(そんたく)はあり得ない。

「過ちては改むるにはばかることなかれ」。これが、EBPMの推進には必須である。しかし、この姿勢は、学術研究では当然のこととして受け入れられているものの、日本の政策現場ではまだまだである。それは、翻って、有権者が政府に無謬性を求める姿勢にも因があるかもしれない。

ほかにも、これからを生きる若者への示唆など、読みどころの多い本である。