きうち・たかひで●1987年から野村総合研究所所属。日本経済の分析、ドイツ、米国で欧米の経済分析を担当。2004年野村証券に転籍、07年経済調査部長兼チーフエコノミスト。12年7月から17年7月まで日本銀行政策委員会審議委員、この間独自の視点で提案を行う。17年7月から現職。(撮影:尾形文繁)

米国政府は保護貿易主義的な政策を続けている。その厳しい姿勢により、中国との交渉はなお進展が見られず、カナダ、メキシコとのNAFTA(北米自由貿易協定)再交渉も難航している。米国はさらに、中国、メキシコに次ぐ第3の貿易赤字相手国である日本に対しても、2国間のFTA(自由貿易協定)に向けた協議を早晩求めてくるのではないか。

日米FTA協議となれば、米国政府は対日貿易赤字の8割近くを占める自動車関連分野を最大の標的に据えて、対米自動車輸出の抑制と、米国側が非関税障壁と見なす国内安全基準、環境基準の緩和などを通じた米国車の輸入拡大を日本に強く要求するだろう。他方で農産物、牛肉などについては、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で米国がいったん合意していた水準からさらに関税率を引き下げるよう、求めてくるだろう。政治的にセンシティブな農業分野を守るために、日本政府は自動車分野で米国側にそうとう譲歩せざるをえなくなるのではないか。

日米貿易交渉が難航する局面では、米国は1980年代、90年代の交渉のときと同様に、円高カードを切ることで日本側に譲歩を迫る可能性が否定できない。