議院内閣制―変貌する英国モデル (中公新書)
議院内閣制―変貌する英国モデル (高安健将 著/中公新書/900円+税/288ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
たかやす・けんすけ●成蹊大学法学部教授。1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業。同大学大学院政治学研究科を経て、英ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにおいて博士号を取得。2010年から現職。専門は、比較政治学、政治過程論。

英国でも課題になる 権力集中の弊害の除去

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

首相権限の強い英国流の二大政党制を目指し、小選挙区制の導入など政治改革に日本が舵を切ったのは1994年だった。その後も首相権限を強化すべく、様々な行政改革を行い、近年は内閣人事局の設置で、省庁統制を強化した。この結果、あらゆる決定が首相主導で進むようになったが、十分な成果は得られているか。

本書は、我々がモデルとした英国の議院内閣制の問題点を専門家が分析し、日本への含意を論じたものだ。近年、英国では議院内閣制が上手く機能するための条件が崩れ、権力集中による弊害の除去が課題となっている。我々は誤った幻想を抱いていたようだ。

二大政党制下での議院内閣制は、議会の多数派が政府を構成するため、立法と行政が融合し、強い権力を生み出す。民意を離れた首相の暴走や少数派の権利侵害を避け、権力をコントロールするには、政党間競争とリーダーの自己抑制が不可欠だ。

しかし、英国も他国と同様、二大政党制が空洞化し、70年代以降、絶対得票率は二党を合わせて50%台に低下、近年は過半を割り込むことも多い。野党に転落すると停滞が続き、政権交代の可能性の大幅低下で、政権への規律付けが失われる。政権中枢が自己抑制を失うと、政権運営は民意からかけ離れ、国民からの信頼は低下という悪循環に陥る。

首相への権力集中で、決めること自体は容易になるが、熟議とは程遠く、政策の失敗が増えたという英国の研究には愕然とさせられる。日本も同じ罠に陥っていないか。

英国では過去30年で政権交代が2度生じたが、制度に内在するものではなく、野党党首の資質と刷新力によるものだったという。英国でも余程のことがなければ、党内外から、野党第一党の党首への求心力は働かないのだろう。

それでは権力集中の弊害に対し有効な手立てはあるか。興味深いのは、勝者である政権党は有利な立場にあるため、政党間競争の維持を意図し、元々、英国では野党第一党に重点的な政党助成を行っている点だ。日本は議席数に応じ助成するから、勝者が益々強くなる。近年は、権力分散を意図し、議会による政府監視の機能強化や地域議会への分権推進、司法の積極化、ルールの明文化なども進める。

与党に有利なタイミングの選挙を避け、有権者の熟慮の上での政権選択を可能とすべく、英国は首相の解散権を法律で縛った。政権自らが権力を抑制しなければ、国民の信頼は得られないのだろう。